恋着

 照明を落とした部屋の中で、オレと阿部君の荒い息だけが聞こえる。

 テストが近付いてきたので、「勉強しよう」と言うことになって、このテスト期間中随分色々見てもらったんだけど、明日はテスト最終日だからそれも今夜でおしまい。
 夜になって阿部君が「んじゃ、オレそろそろ帰るわ」って言って立ち上がった時、オレ…凄く寂しそうな顔したみたいで、阿部君は少し考えてから「やっぱ、泊まってく…」って言ってくれた。 

 その言葉を聞いて凄く嬉しくて嬉しくて、にこにこしてると阿部君がそっとオレにキスしてくれた。
 そのまま角度を変えて、少しずつ深くなっていく口づけ。伸ばした舌を絡め取られて摺り合わせると、ゾクゾクした熱が上がってきて、くらくらする。
 こうやってキスするような関係になって、阿部君をすごく近くに感じるようになった。
 もっともっと近付きたくて、お互いの身体も触れ合うようになっていくのはとても自然なことのように感じた。

「ん……っふぁ……」
 阿部君が触れる所から熱が上がっていく…、阿部君の事が好きだって気持ちを少しでも伝えたくて首に縋り付いて身体をすり寄せた。
 
 何処を触られても気持ちよくて、阿部君に身体を預けた。
 触れる指先は、オレが「気持ちいい」って思った場所が何故か阿部君には分かるらしくて、その後舌先で触れてくる。

 濡れた柔らかい刺激に震えている間も、阿部君の指は色んな所に触れてきて……ピクッ…て、反応すると今度はそこを舐めてくれる。
 凄く恥ずかしいけど、気持ちいい。阿部君だから……すごく幸せ。

 もし、触れているのが阿部君じゃなかったら、絶対こんなふうに嬉しくならない…よ。

 阿部君が好きだ。
 体中がジンジンするくらい阿部君を感じながら、そう思った。




 閉じた目をそっと開いて阿部君を見ると、阿部君がオレの目の前で、自分の指を意味ありげに舐め上げた。
 阿部君が何をするのか分からなくて黙って黙ってみていると、その指が口から引き出され、オレの下肢へと伸びていく。
 すっかり感じてしまった前を触ってもらえるのだとばかり期待に震えていると、指はそのまま通り過ぎて思いもかけないところに触れられた。

「!?」
「………嫌…か?」
 聞かれて慌てて首を振る。
 すっごくすっごくビックリしたけど、嫌じゃない。
 阿部君なら……何処を触ってもいいんだ。

 濡れた指で何度もなぞって、股の皮膚や、玉の裏側とか指先で触れられる。
 そんな所を触れられるのは初めてで、ドキドキする……。
「い……嫌じゃ…ないっ……よ。」
「そっか」
 ほっとしたように阿部君が笑う。
 その顔を見てると、急に胸が熱くなって、きゅーって苦しくなった。
 それに、それに、段々凄く気持ちよくなってきた。


「い……痛っ…」
 オレが、ぽーって、なってると阿部君は指を潜り込ませてきた。
 指一本、ほんの先っちょを入れられただけで、引きつるような痛みが走り、つい声を上げてしまった。
「無理か?」
 慌てて阿部君がオレをいたわるように、そっと指を引き抜いた。
「だ……だいじょ……」
「無理すんなって…。お前を怪我させちゃ意味ねーんだよ…。」

 そんなふうに言われると、次の言葉は何も浮かんでこなかった。
 阿部君が終わりって言ったら、甘い時間は終わっちゃうんだ。
 本当はもっともっと阿部君と繋がりたい。触れ合っていたい…。


 阿部君が帰ってから、お父さんの部屋に入った…。
 この部屋にだけある、唯一のパソコン。

 powerと書かれた起動ボタンを押すと、ヴゥンッ……と、音を立て、パソコンが起動する。
 何度か使ったことはあったから、使い方は分かってる。


 調べるのは………………。



   −−−ホモセックス−−−










 深夜、家族が寝静まったのを確認しながら、ソロソロと階段を下りていく…。
 かちっ。
 キッチンの明かりを付けると、親に見つかるんじゃないかとドキドキする。

 ビクビクしながら後ろを振り返るけど、親が起きてくる気配はなかった。
 ほっ…として、流しに近付く。

 そっとシンク下の扉を開いて、その奥にある調味料に手を伸ばす。
 割と奥にあったので、「えいっ」と身を乗り出すと、隣に積み上げてあった鍋が崩れて、ガランガランと大きな音が廊下まで響き渡った。

 ビクビクと震えて、何て言い訳しようかと頭が真っ白になった。
 電気をつけた時点なら、「のどが渇いた」とか言い訳できたけど、シンクしたの鍋をひっくり返した状態では何て言えばいいのか分からなかった。


 時間にすれば数秒だったはずなのに、とても長い時間が経過したかのようだった。幸い、両親はこちらにやっては来なかった。

 鍋を一つ一つ元にもどし、目的のものを手に入れて部屋へと戻った。


               ◇
               ◇
               ◇


 部屋に戻ると隠し持ってきたオリーブオイルを取り出し、明かりを消してベッドへ移動した。

 ベッドにバスタオルを敷いて乗り上がり、ずるり…と下着と一緒にパジャマのズボンを脱ぎ捨て、零さないように指に垂らした。
 
 ぬるり…とした感触が指に心地良い…。
 そーと、足の間に手を入れて、指先で襞を弄る…。
 クルクルと塗りつけた後、ゆっくりと埋め込んで行く…。

 阿部君の顔を思い浮かべながら、少しずつ、少しずつ、自分の指を埋め込んで行った。

 もう…もうあんなふうに痛がって阿部君をがっかりさせたくない…。少し怖かったけど………阿部君に、満足して欲しくて…。止めようとは思わなかった。

 指先を第二関節まで入れた所で、オイルの滑る感覚が無くなってしまった。
 仕方なく指を引き抜き、もう一度付け直して再度挿入する。

 何度か繰り返すうちに、中に入らなかったオイルが内股を伝ってシーツへと零れる。
 あ……っと、思ったときには汚してしまっていて、徐々に熱くなる身体を持て余し始めた状態では、構っていられなかった。

 クチュクチュと音を立てるそこを弄る行為に、段々とのめってしまっている。
 柔らかく解れたそこに、もう一本差し込んだ。

 そうやって広げるところまでは調べきれなかった。
 パソコンで調べたのは『潤滑剤などを用い徐々に慣らしていく。専用のクリームが望ましいが、手元に無い場合はオリーブオイルなどで代用できる』

 調べたのはそこまでだったが、身体が熱くて……欲しくて堪らなくなっていた。
 知識が無くとも、熱を帯びた身体が欲しがるものを教えてくれていた。


 「気持ち……いぃ……。」
 吐息まじりに自然と零れた言葉…。
 自分で発した言葉なのに、耳に届くと煽られる。

 二本の指をバラバラに動かしているだけでクラクラして、自然に足の力が抜けていく。
 足では身体を支えていられなくなって、左手を前に着いて四つん這いになって身体を支えた。

 その間にも指は止まることがなく、体勢を変えたことで違う角度に指が埋め込まれていく…。夢中になっていると、指のタコがあたるところは刺激が強くなることに気が付いた。

 ”気持ちいい”と感じるところに、そっと指の堅い部分で擦り上げてみる。
「んっ……ひゃあぁぁ……ぁ………あんっ」

 自分で触れているのに、刺激の大きさに声が零れた。
 身体を支えていた左手は、すっかり立ち上がった前を刺激して、肩で体重を支えていた。

 大切な大切な阿部君が、大事にしてくれる右肩は庇って左肩を下にしてシーツに顔ごと埋まる。
 腰だけを高く上げて、前と後ろを同時に刺激する。

 頭の中は、気持ちよさと阿部君でいっぱいだった。
 何度か見たことのある、阿部君の下半身が思い浮かぶ。

 オレ……イケナイ子なのかな?
 阿部君の事…、こんなふうに思い出すなんて。

 阿部君の堅くなったソレを入れて欲しいと思った。

 ゴメンナサイ……
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


 びくっ……と硬直した後、身体がフルフルと震えた。
 気持ちよかったけど、申し訳なさで胸がいっぱいになった。


 あ……阿部君を、……こんなふうに思い出しちゃいけなかったのに。
 ごめんなさい。ゴメンナサイ。ごめんなさ……。


               ◇
               ◇
               ◇


 次の日−−−−−−。

 ブルペンで3球目を投げたところで、阿部君がオレに近付いてきた。
「三橋?」
 ビクリと堅くなるオレをみて、阿部君は何か感づいたみたいだった。

「ひょっとして…昨日ので調子悪いのか?」
 ”昨日”という言葉に昨夜の事が脳裏に蘇る。
「あ……」
 怯えた目を阿部君に向けると、阿部君は心配そうにオレのことを見てくれている。おれ…オレ、こんなイケナイ子なのに、あ…阿部君に心配までして貰って……。
 なんて、ヤナ奴…。

「指だけでも痛かったんだな…。ごめんな。今度はもっと…」
 ぎゅっと目を閉じて昨日のことを反省していると、阿部君から返ってきたのはそんな言葉だった。

「あ……」
「ん?何だ?何でも言ってみな。少しその辺座るか?」

 オレは、ブルブルと頭を振って、グローブで顔を隠しながら阿部君を覗き見た。

「あ……あの………あのっ」
「ん?」
 下を向いて俯いていた顔を、ゆっくりと上げて上目遣いに阿部君を見た。
 阿部君は少し首を傾げて、優しい目でオレを見ててくれた…。

 こんな事言ったら…阿部君に嫌われちゃうかも…って思ってたのに、その目を見たら何だかとても安心してしまった。

「今日……オレの家、……きま……せん…か?」
 言えた。
 ほっと…ってしたけど、怖くて顔が上げられない。

 阿部君は今、どんな顔をしているんだろう?
 阿部君は何て答えるだろうか?

 ドキドキが止まらなくて…。
 昨日の出来事がフラッシュバックみたいに断片的に蘇ってきた。
 昨日、オレが何していたか分かるだろうか?

 体温が自分ではどうしようもないくらい上がって行くのを感じる。



 もう、この熱は…阿部君じゃなきゃ下げられそうも無かった。 



恋着(れんちゃく):忘れられないほど深く恋いしたうこと。
アベミハはお互いへの愛がハンパじゃないので、書いてて楽しいです♪

このお話は、9月9日がお誕生日のCHRちゃんへ捧ぐ☆
2008.09.14