特別な用

 6月15日は河合和己の誕生日だった。
 夜9時ぐらいになって携帯に届いた一通のメール。
 呂佳さんから…。

 さり気なく絡んでみても、いつも素っ気なくかわす呂佳さんの方から自分の誕生日にメールが来ただけでも和己は嬉しかった。
 どうせ…桐青(うち)が集めた他校のデータを寄越せとか言うんだろうなと、思いながらも、つい口元がほころんでしまう。
 軽い気持ちで開いたメールの内容に、時が止まった。

「祝って欲しくねーのか?」
 そこから後は記憶にない。
 猛ダッシュで自転車をこいでいたような気がするが、気が付けば美丞狭山校の校門前にたどり着いていた。
 突然来て驚くだろうか?でも、無性に会いたくて仕方がなかった。
 和己は意を決し、他校の門をくぐっていった。


               ◇
               ◇
               ◇


「呂佳さんなら、今日は家帰りましたよ」
 合宿所の外でグローブの手入れをしていた野球部員に聞いてみると、そんな解答が帰ってきた。
 期待に膨らんだ胸が、しおしおと萎れていく…。
 てっきり合宿所にいると思ったのに…。

「あの…なんか今日は特別な用があるとかって言って…、メシ時までは居たんっスけど…」
 落胆のあまりがっくりと項垂れる和己に、野球部員が申し訳なさそうに付け加える。

-トクベツナ、ヨウ-

 その響きに、萎れた期待が勢いよく膨らみ始める。
「と…特別な用…スか?」
「は……はい……」
 もしかして…おれの誕生日を祝ってくれる気で……。
 期待に輝く瞳で見つめられ、思わず後ずさりする野球部員などお構いなしに、和己は勢いよく野球部員にお礼を告げ、踵を返していった。

『何処にいるんスか?』
 短いそれだけのメールを送るが、返事は帰ってこなかった。
 取りあえず仲沢家に行ってみるが、庭で素振りをしていた利央を見つけ聞いてみるが帰っていないと言う…。

「そうか…邪魔してスマン」とだけ言い残して、何処へ向かえばいいのか途方に暮れたところで、呂佳さんからメールが帰ってきた。
 慌てて開くと、そこには『2人の思い出の場所だ』…と、書かれていた。

 2人の思い出の場所ぉぉ???

 ……正直、和己は今まで色好い返事を貰ったことなど一度もなかった。
 このメールをみて、初めて和己は自分が呂佳にからかわれたことを悟った。

「……………ふっ」
 おかしなもので、悔しさよりも笑いが込み上げてきた。
 自分にイタズラを仕掛けてきたのだ。あの呂佳さんが…。
「絶対見つけますよ」
 本気になった和己の目には、ハッキリと情欲の色が灯っていた。


               ◇
               ◇
               ◇


 取りあえず呂佳さんの行きそうな所を考えてみたが、今まで呂佳さんにまともに相手にして貰ったことなど一度もなかった。
 当然、2人で作るような思い出にも、特に覚えがない。
 しかし、ここはなんとしても見つけださなければ。
 野球部員が言っていた「特別な用」という言葉が和己を突き動かしていた。

 和己は自転車であらゆる所を回った。

 俺が呂佳さんに初めて、それっぽいことを聞いてみたファミレス…。
 俺が呂佳さんに初めて、告白した公園。
 俺が呂佳さんに初めて、プレゼントを渡した道端…。(ちなみにプレゼントはその場でぐしゃぐしゃに踏まれてしまった)

 ―――――――――――――――――いない。
 しかし、俺が絶対に見つけられないような所には居ないはずだ。
 今までの呂佳さんの行動パターンから言っても、後日になってから「俺はここにずーと居たのにお前分からなかったのか。残念だな~」などと、悔しがらせるのが目的に違いない。
 絶対に俺の側に居る!
 最早それは確信だった。

 問題は何処に居るかだ…。
 呂佳さんの家&合宿先・俺が今まで呂佳さんと接触のあった場所が全てハズレとなると、残りは「俺が普段出入りしている場所」しか考えられなかった。
 まったく知らない場所だと、俺が悔しがるわけないからな。

 考えながら、つい、口元が綻ぶ。
 イタズラなんか仕掛ける時点で、俺のこと考えてるって自覚は無いんだろうな。

 今頃、呂佳さんが自分の事を探し回る俺を想像している思うと嬉しくて仕方なかった。
 それだけ、俺の事が気に掛かってるって証拠ですよ。
 これは、なんとしても探し出さなくては…。

 その頃、仲沢呂佳はお手製のツマミを口に放り込みながら発泡酒で喉を潤していた。
 疲れた身体に気持ち良くアルコールが染み渡る。
「ふふっ。和己のアホ面を思い浮かべながら食うツマミは美味い」
 自分を捜し回って途方に暮れる和己を思い浮かべ、悦に浸りながら幸せな時を過ごしていた。


               ◇
               ◇
               ◇


「……さ…ん、呂佳さん」

 呼ばれる声に目を開けると、至近距離の和己と目が合って全身が凍り付いた。
 しかも、自分に覆い被さっている。
「見つけましたよ。呂佳さん…」
「なん……で」
 俺、いつの間に寝てたんだ?
 ここは各教科の『資料室』と称した倉庫のような部屋の隣の部屋で、埃まみれに山積みされた資料に隠れた、鍵の掛かった扉からしか入れないヒミツの場所だった。

 隠れるには絶好の場所で、3畳とはいえ畳が敷いてある事からも誰かがサボるために用意してあるようだった。
 ただ、やたら年期の入った畳と、部屋の鍵を先輩から受け継いで手に入れた経緯からみても、元々この部屋を作った主はとうに学校を去っているのだろう。
 卒業するときに誰にも教えなかったこの部屋は、和己には絶対に見つけられない自信があった。
「あいつはこういうところ見つけるのが得意なんですよ。」
「あいつ?」
 誰のことか検討もつかず、オウム返ししてしまう。

「慎吾がね…。桐青高校(うち)で隠れられるような所を教えてくれたんですよ」
「……慎吾??」
 慎吾って、あのやたら目立ってたアイツか?そう言えばやたら器用で飲み込みが早く、要領が良い上に和己と仲が良かった覚えがある。
 なるほど、アイツなら自力で探し当てたとしても納得できる。でも、鍵はどうしたんだろ…。俺の他にもここを知ってるヤツがいるとは夢にも思わなかった。

 起きあがろうとして後ろに手を着こうとしたが、動かないことに気が付いた。
 見ると、捻ったビニール状の紐で手をくくりつけられていた。
 手が縛られてる。
「なん……だ、こりゃ…ほどけ」
 辺りを見回すと、発泡酒の入っていたコンビニのビニール袋が無い。
「必ず俺の側にいると思ってましたよ。」
 蛍光灯を背に、にっこりと笑いながらジリジリと近付いてくる和己から目が離せなかった。

「なんで……、側にいるだなんて思ったんだ?」
 気が付いたら後ろの壁へと追いつめられていた。
「さぁ…何ででしょうね」
 ふっ…と、笑う。先ほどとは違い、今まで一度も見たこともないような男の顔だった。

 来ていたTシャツの裾をから、和己の手が侵入してくる。そちらに気を取られた瞬間、口を塞がれた。
「んんっ……っ」
 一瞬の隙だったのに見逃してこない。
 身体を巡るアルコールの熱も手伝ってかクラクラする。

 情けなさに泣き出したい気分に苛まれながら「どうやって逃げよう…」と、その事ばかり頭の中をグルグルと巡るが、手を縛られた上にのし掛かられたこの状況では為す術が無かった。

 その上、和己は俺とさして変わらない体格で、力も大差ない。
 圧倒的に不利な状況で腹と胸をまさぐられた。
 一体こんな事して何が楽しいんだコイツ??桐青の歴代主将を勤めた連中は、どいつも女達に人気があった筈だ。
 お前だってモテてんじゃねーの?何で俺なんだよ。

 状況が飲み込みきれずに焦っていると、たくし上げられたTシャツから見える乳首をコロコロと円を描きながらくすぐるように転がしてきた。
「?!」

 自分が女みたいに扱われていることが信じられない。
 ジタバタと藻掻くと、首筋を舐められながら事もあろうに俺の股間をさすってきがやる。
「ちょおっっお前何考えてんだっ!放せ!!」
 必死になって叫んだが、まるでその言葉が合図だったかのように下着の中に手を突っ込まれ、直接陰茎を握り込まれた。
「-------------!!」
 そこまでされると、もう言葉もでなかった。
 流石にそこを扱われると気持ちよくて、触れられるところからシビレのような感覚が腰全体に広がって行くのを感じた…。
 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…


「これ、呂佳さんが作ったんスか?」
 突然、日常会話のように話し掛けられてビックリした。
 下着の中ではすっかりコイツに育てられて、シッカリと形を成して猛った性器が震えている。
 何言ってんだコイツ??

 性器に触れてない方の和己の手にあったのは『酒のツマミに』と作ってきた、トマトをオリーブオイルで焼いて塩で味付けしただけのものだった。
「腹でも減ったのか?…それ、やるからとっとと帰れっ!」
 訳が分からなかったが、和己さえいなければ一人でどうとでも処理出来る。
 和己から離れようと、身体を横に向けようとした所でがっしりと肩を掴まれた。

 心臓が止まるかと思うほど驚いて、恐る恐る後ろを振り返ると、和己の指が蛍光灯の光を浴びてテラテラと光っていた。
「腹は減ってません。ぬるぬるしてるなぁ……って、思っただけですよ」
 そう言ってニッコリと笑った。
 コイツがこの笑顔で笑った時、今までろくな事が無い。
 嫌な予感で背筋が凍り付いて行った…。


 堅く閉じた襞の回りに、ヌルリとオイルを塗りつけられる。
「おまっ……何やってんだ!」
 驚いて足を閉じようにも、広げられた左足の上にはコイツが乗っかってるし、右足はガッチリ和己の手で押さえつけられ、下半身は縫い止められたかのように動かなかった。

 たまらず腹筋で起きあがり縛られたままの拳で和己に殴りかかったが、起きあがってから殴りかかるのでは容易に感づかれ、簡単に避けられてしまった。
 しかも今度はそのまま横向きに押さえつけられ、片足を和己の肩に乗せられた上、もう片方に体重を乗せられて足を限界まで大きく開かされた状態では、まともに身動きも出来なくなった。

 動きを封じられ、後輩に好き勝手されることに目眩を覚えながらも、何とか侵入だけは防ごうと尻にグッと力を入れ、全身で和己を拒む。
 閉じた襞にまとわりつくオイルの感覚が気持ち悪くて仕方が無かったが、今はコレが精一杯の抵抗だった。

「そんなに閉じたら指が入んないっスよ…」
 入れさせないためにやってるんだろーがっっ。
 突っ込みを入れたいのは山々だが、何か喋ったら力が抜けてしまいそうなので、黙ってグッと我慢した。

「そんなにイヤっすか?」
 平然と聞いてくるコイツに、怒りで頭に血が上る。
「あ……あっ……当たり前だっっ!」
「そうスか……。じゃ、仕方ないっスね」
 そういって肩から俺の足を外したので解放されるのかと一瞬ホッとしたが、それはとんでもない思い違いだつたようで、こともあろうに口で銜えようとしてやがる。
 じょーだんじゃねぇっ!

 足の上からコイツがどいたので、咄嗟に阻止するため太股で思いっきり和己の頭を締め付けてやる。
「いてて…呂佳さん痛いっスよ」
「お前がふざけた事しようとするからだろ。コノヤロウ」
 ギリギリと頭を締め付けてやると、段々髪の毛の隙間から見える和己の顔色が赤くなってきた。

 もうちょっとで音を上げるはず…と、更にギリギリと締め上げると、今度は血管まで浮かび上がってきて逆に段々心配になって来た。

「………おい」
「………」
 何の返事もしない和己に不安を覚え、少しだけ力を緩めてみると、その瞬間、凄い勢いで足の間から抜けだして両手で脚を押さえ込まれた。
「てめ……っっやめろ!!」

 半ば悲鳴のような抑制は無視され、伸ばされた舌先で舐められた後とうとう銜え込まれてしまった。
「うあっ」
「こんど、足で締めたら噛みまぁふからね。」
 一番弱いところを口で人質に取りながら脅しをかけて来やがった。
 しかし、ガブリと噛まれるのが恐ろしくて為す術がない。

 和己の歯がちょっと触れただけでも、恐怖のあまりビクリと反応してしまう。
「うぁっ」
 逆にその脅しが却って緊張感からか顕著な反応を示してしまう。
 前への刺激一挙一足党にビクついて気を取られている隙に、滑り込むように後ろに指を埋め込まれた。

「うあっ……や……やめっ………ろ」
 か細く縋るような声になってしまい、あまりの情けなさにもういっそ消えてしまいたいとさえ願う。
 やがて、ぬちゅぬちゅと奥へ埋め込まれる指から粘着質で卑猥な音が耳へと届いた。

 聞いていたくなくて気を逸らそうとするが、前を銜え込まれた状態では、どうやっても意識は下半身に集中する。

 ぬる…にゅる…と、いちいち感覚が嫌にリアルに伝わって来て、所々他とは違った感覚が伝わる場所があり、そこに触れられるとわずかに緊張が走る。
 その感覚を伝えてくる特定の場所を和己は見破り、そこばかり執拗に弄ってくるようになった。
 何で捕手やってるヤツって微妙な違いを見逃さないのか…。やばいところを刺激されて段々困ってくる。
「ちょ…それ……やめっ」
「どうして止めて欲しいんですか?気持ちいいんでしょう?」
 赤い舌で先端をチロリと舐め上げながらそんな事を言い出す。
 あまりの光景に目眩すら覚える。
「良くねぇよ」
「ふぅん?」
 そう言って、また深く銜え込まれた。良くこんなの平気だなコイツ…。ガチでヘンタイだぜ…
「うぁっ…っ」
 突然コイツが内部に埋めた指で変なところをぐいぐい押してきた。
「なっ……ちっ……ちょっ」
「ここ押すと、ビクビクってしますよ。気持ち良いんスか?」
「なっ……ふざ…け……ひぁっっ」
 げぇっ変な声出ちまった。
 こんなんじゃコイツを喜ばすだけだ。
 恐る恐る覗き見た和己の顔は、案の定余裕たっぷりにこちらを見ていてバッチリ目が合ってしまった。

 腸が煮えくりかえるほどムカツクが、後の祭りである。
 チョーシこいた和己が益々弱いところを追い上げていく。
「ふっ……ふぅっ……っ」
 漏れる声を必死で噛み殺すのが精一杯だった。

「んあっ!……?」
 突然圧迫感が増し、驚いて下肢を見下ろすと
「あ、指増やしたんスよ」大分慣れてきたから…。などと、しれっと言い放つ。
 おま……今まで一度だってそんな顔見たことねーぞっ。無害そうな顔しやがって殺す!




 両手で俺の脚を膝を曲げながら抱え上げて、腰を近づけてくる。
「―――っや、やめろ和己……っ」
「ご冗談を…」
 先程まで散々弄られていた後口に、柔らかな先端があたる…。
 挿入の恐怖に真っ白になった意識の中、ふいに和己が頬へ触れるようなキスを落としてきた。
「……………」
「あんまり、怖がらないでください。十分慣らしたから、力抜いてくれば怪我させずに済みますから…」
 そう言いながらも、内部へ侵入しようと圧力をかけてくる。
「ぐっ……」
 絶対嫌だ!
 下腹にめいっぱい力んで拒絶を表した。

 何とか上に乗っかってるコイツをどかそうと、使える物がないか当たりを見回しているときに無防備にさらされた鎖骨をペロリと舐められた。
「あ…。あ゛あ゛っ!!い゛……痛っ」
 気を取られた一瞬の隙に、先端の侵入を許してしまった。
「や……やめっ」
 段々と質量の増すそれがゆっくりと、埋め込まれていく…。どんなに力を入れても拒んでも、オイルの滑りがそれを許さなかった。

 身体の中を徐々に進んで行くソレに、内壁を擦られて肌が泡立つ。
「うわっ……すっごい鳥肌ですね。気持ち悪いっすか?」
「あ……当たり前………っだ」
 ブルブル震えながら耐えていると、突然キスで口を塞がれた。

「んっ……んん??」
 何考えてるんだコイツは「放せーーーっっ」と言った意味を込めて髪を思いっきり引っ張ってやったのに止めない。
 残念ながら掴むのがやっとの長さでは痛みに耐えられるようで引き剥がすことは適わなかった。
 しかし、痛みはしっかり感じているようで、力一杯引っ張ったときはコイツの動きが何度か止まった。

 和己が脚を抱え上げていた腕を外したので、てっきり髪を引っ張っている腕を邪魔しに来たのか思ったら、首の下に手を入れられ更に深く口づけられた。
「ふっ……んぅっ」
 バカかコイツ、なんで腕を取りに来ないんだよ。
「か…髪……痛く……ねーのか?」
 やっと唇を外してきたので、多少バツが悪かったが疑問に思ったことをぶつけてみた。

「呂佳さんにだけ痛い思いさせるのは、不公平でしょ?」
「おま……バカじゃねーの」
 何考えてんのか、ちっとも分からねぇ…。なのに、どっかでほんの少しだけ感動してる俺がいた。

 どうしていいのか分からず和己を見ていると、ふっ…と優しく笑ったので益々混乱してしまう。
 とてもじゃないが、こんな無理矢理男のケツの穴に突っ込みながら状況で出てくるような表情じゃねーよ。

「ガチホモ野郎。お仲間が欲しけりゃ2丁目でも行けよっ」
 必死になってそれだけ叫んだ。それで状況が変わるとは思えなかったが、このまま受け入れる気になど到底ならなかった。
「それじゃ意味無いですね。俺が欲しいのはお仲間じゃなくて…………呂佳さんですから」
 必死で耐えている俺の耳に届いた言葉は、そんな一言だった。

 そうこうしている間にも、どんどん奥へと和己が進んでくる。
「好き…です」
 それを聞いたと同時に、とうとう全部奥まで入れられたことに気付いた。
 和己の腰が隙間無く密着している。

「おま…おかしーんじゃねーの?好きだっつーなら普通の先輩として慕えよなっっ何でこーなるんだよ」
「んー…何でなんでしょうね。俺もそう思います」
 ゆさっ…と、腰を振られ、中にいる和己を嫌でも意識させられた。
「…っ!!」

「……や……やめ、動くな」
「それは無理な相談ですね」
 抑止は聞き入れられること無く、和己は欲望を俺に穿ち始めた。

「あ……ふ……ぐぅっ………っ……っ」
 必死で目を閉じて声を噛み殺すが、それでも堪えきれない苦痛の声が漏れる。
 気持ち悪さに吐き気が込み上げる。なんだこりゃ?

 そろりと目を開けると、今まで見たこともないようなチキン肌を立てている自分の肌に驚いた。
 何で、こんな目に遭わされなきゃならねーんだよ。
 ちょっとコイツの事からかってやるつもりだっただけなのに。

 でも、コイツがこういったことを望んでいるのは知っていた。
 結局は自分で捲いた種だった。
 諦めて声を噛み殺すことだけに意識を集中して耐えていると、不意にすっかり萎えてしまっていた前を扱われた。
「ちょ……っっ触んなっ」
 弱いところを握られ、無理矢理快感を呼び起こされる。
 すると不思議と内部からの刺激が、呼応するかのように前への刺激へと変換されていった。

 うっそだろうぉ?
 身体の内部をヌルヌルと行き行き来しては奥を突いてくる肉棒と、お互いの汗にまみれた肌が密着してきて、やたら和己をリアルに感じるばかりで、凄い事やってるんだと自己嫌悪に陥る。

 泣きそうになりながら「早くイッてくれ」と、そればかり願った。
 何度か角度を変えて突かれているうちに、他の場所とは違う感覚を呼び出す場所がある事に気付く。
 「ヤバイ」本能的にそう感じ取って、必死で声を殺して堪える。何よりこんな感覚が自分に有ることを認めたく無くなかった。

「んぁ゛っ……っ」
 必死で我慢してたのに、思わず上げてしまった声は妙に印象的に響く。その一言でそこが他の場所と違う感覚を呼び起こしているのが和己にバレタ。
「ここっ…スか?」
 確かめるように腰をゆっくりと抜き差ししながら内部を探ってきた。
 変な感じがする所を探り当てられ、何度も刺激されているうちに徐々に「変な感じ」の正体を嫌でも自覚する。
「や……やめっ」
 擦られるたびに高まる射精感を必死で堪えるが、和己の無骨な指が緩急を付けながら弱いところを容赦なく解放へと導いてくる。

 何でこんな事になってんだ。冗談じゃねぇよ…。
 もう、やめてくれ。これ以上されたら…本当に出しちまう。
「ぐっ……ふっ……ふぅっ…ぅ」
 必死で噛み殺す声が漏れる。

「そろそろ、イキそう…っスか?」
 和己が荒い息で興奮しながら聞いてきて、腰の動きが一気に早くなる。
 げぇ…俺ん中でイク気かよ。
 俺相手に興奮するなんて、本気で変態じゃねーのお前?

 一体何が楽しいんだよ。もうやめてくれ……もう……もう…我慢できない。
 堰を切ったように一気に出してしまい、身体が一瞬硬直した後震える…。
 その間も和己は突いてくるのを止めてくれなくて、押し出されるかのように残った精液が萎えた先端からピュル…ピュッと、突かれるタイミングに合わせて何度か零れた。

 あまりの卑猥さに目を背けた頃、和己が中でイッたのを感じた。当然のように中出しされ、最後の一滴まで注ぎ込まれるのが伝わり、何とも言えない後味の悪さを嫌と言うほど味わった。


               ◇
               ◇
               ◇


 言葉もなく落ち込む俺から、ズルリ…と和己が退いていった。
 熱い物が引き抜かれ、そこから暖かい液体が溢れて零れ落ちる感覚に更に落ち込む。

「何で俺、お前とやっちまってるんだろう…」
「相思相愛だからじゃないですか?」
 唖然とする俺を横目に、平然と和己のヤツはそう答えながら、鞄からスポーツタオルを取り出して俺のケツを拭き始めた。
「ふざけんなよ。俺がいつ…」
「好きじゃなかったなら、なんでメールくれたんスか?」

「すげぇ……嬉しかったんですよ。俺の事、待っててくれたんでしょ?」
「ちが……」
「美丞大の野球部員に聞きましたよ。『特別な用』があるっていって出かけてったて…こうして一人で待っててくれたじゃないですか。待ってる間、俺のこと考えててくれたでしょ?」
 ………確かに考えていたが、あくまで目的はからかうためで……。
 ちらりと覗き見た和己は、凄く幸せそうな顔をしていた。

「………自分でやるっっ!」
 いたたまれなくなって和己が手にしていたタオルを引ったくったまでは良かったが、手を縛られたままだった事に気付き「外せ」と要求する為、つい…和己を見てしまった。

 ドキリとするぐらい優しい目でこちらを見てた。

 …そんなに幸せそうに笑うんじゃねーよ。
 そのまま下を向いてゴシゴシと何度も拭う。……しかし、拭いても拭いても中から少しずつ垂れてきて、いつまで経っても綺麗にならない。

「あ。」
「なっ…なな…何だよ」
 突然声を上げた和己にビックリして問いかける。

「中出しすると、そうやってちょっとずつ出て来ちゃうから指で掻き出さないといけないんですよ」
「へ?」
 言いながら俺の股に手を伸ばしてくる。

「ちょっっ……お前、何考えてんだ」
 咄嗟に和己の腕を掴んで全力で阻止する。
「だってそれじゃ、自然に出てくるの待つんですか?結構時間掛かると思いますよ」
「誰のせいだ…誰の………つか、そんなマネするくらいならジッとしてるから構うな」
 俺が目眩を覚えながら非難してやると、急に和己は真剣な眼差しで俺を見つめてきた。

「責任は取ります」
「真顔でイテェ事いってんじゃねーよっっっ。んなもん取らなくていいっっっ」

「だって明日も朝練なんっしょ?呂佳さんが居なかったら、美丞大のみんながご飯食べられないじゃないですか。可哀相ッスよ!」
「知るかそんなもん、あいつらでどーにかすんだろ」
 ドタバタともみ合い、必死の抵抗をする……。
 傍目にはどう見てもじゃれ合っているようにしか見えない…。
 一番不思議なのは、この状況で悪い気がしない自分自身だった。



 やがて……。

「ギャーーーーーーーーーーーーーッッ」
 夜の校舎に、もの凄い悲鳴が響き渡り、次の日の美丞大狭山高校野球部の食卓は、いつも通りバランスの取れた食事が並べられ、美味しそうに頬張る野球部員の笑顔が輝いていた…。



カズロカ ウェブ アンソロジーに寄贈させて頂いた小説でした。
素晴らしき作品の目白押しです☆是非是非ご覧下さいませ。
カズロカ ウェブアンソロジー様

さて、今回は呂佳さんが一人で酒盛りしてるシーンがあるのですが、酒類を何にするか随分悩みました。
イメージ的に最初に浮かんだのがビールだったのですが、5%ごときのアルコールで酔っぱらうかぁ??と、非常に疑問に思ったので本数はあえて書きませんでしたw

そして、貧乏なので発泡酒。おつまみは、お手製だろうと思ったので潤滑油に出来そうなレシピをわざわざ検索して見つけましたw

2008.09.07