兄貴の恋人 2

夏休み…昼間から惰眠を貪る良守の上に、一つの影が落ちる。

「ん…」
胸元でもぞもぞする感覚に良守が目を覚ますと、目の前には墨村家長兄にして、良守の恋人というポジションに収まった兄がいた。
いや、良守の上に覆い被さっている今の状態では、真上と表現すべきなのだろうか?

それはどうでも良いが、良守の肌を這う兄の手はハッキリとした意図を持っていた。
「じょ…冗談だろう。止めろ。」
「なんで?」
「今、真っ昼間だぞ。」
良守がようやく状況を理解して逃げようとするが、体格差のある兄に上から抑え連れられていれば逃おおせる筈もなかった。

「昼間だと、何か不都合でも?夜の方が声も響くし昼間の方が見つかりにくい」
「こ…声とか言うなよ。は……恥ずかしいじゃん。」
それ以前に、昼間なら誰が部屋までやってくるか解らない。
慌てて逃げようとするが、結界が張ってあることに気が付く…
…だったら声は関係ねーじゃねーか。

「恥ずかしいって…明るいと恥ずかしい?」
一々確認しなくてもわかるだろぅ…。

「そんなに恥ずかしいなら、目隠しでもすればいいだろ…」
俺が俯いて何も言わなかったのをどう取ったのか、嬉しそうに、そんな事をのたまう…
何を言い出すんだコイツは…

昼寝を邪魔され、起きたばかりで怠い良守はがっくりと脱力した。
「バカ言ってないで仕事しろよ。夜行に帰れば?」
溜息をつきながらその気がないのをアピールしてみた。
「俺は夜仕事なんだよ。今は寝かせろ」
いつもなら、こんな言い方はあまりしないのにな。気持ちよく寝ていたのを邪魔されたのが面白くなかった。
しかし、俺の目線は兄貴の持つ白い布に釘付けだった。

「…………それ何?」
「目隠し」
ニッコリと嬉しそうに解答する兄貴に目眩がする。
こいつ…俺の話なんか聞いちゃいねー…

「お…お前に見られちゃしょうがないだろう。」
「ふーん……じゃ、俺が目隠ししてやるよ。」

……あ…あれ?そう言って、俺に付けようとした目隠しをさっさと自分につけてしまった。
「な?コレなら恥ずかしくないだろう?」
「…え?……えーとぉ……」
自分に目隠しなんかして、どーすんだろ?
俺が戸惑っていると、兄貴は当然のように愛撫を再開し始めた。

「え?ちょ……ぉ……」
「気持ちいい?」
慣れた身体は、馴染んだ刺激にすぐさま反応した。
正直、すっごく気持ちいい。

震える身体を持て余すように、堪えきれなくなった甘い吐息が断続的に洩れる。
正守の首に手を回して縋り付き、耳元で甘えるように息を吐くいた。
「ん…ぅっ」
「いい声。でも、良守の顔が見られないから、言葉で感じてるって言ってくれないと、わからないなぁ…」

へ?
「な?……何が…、解……らない?」
白濁し始めた意識を繋ぎとめ、質問の意図を目の前の男に問う。
「ほら、俺こうやって目が見えないだろう?良守がちゃんと感じてくれているのか、教えてくれないと、わからないじゃないか。」

………ぜってー嘘だぁぁぁ。こ…コイツそうやって俺に恥ずかしいこと言わせる気だな。
俺は怒りで覚まされた意識の下で、絶対言うもんかっっと誓った。
「あれ?なんか息荒いねそんなに興奮してる?」

むかぁっっ
「そんっな、わきゃねーだろっっイラついてるんだよ!!」
「何で?」
悪びれることなく平気で聞いてくる正守を見て、一瞬眩暈が襲う。

「お…お前がくだらない事言わせようとするからだ」
「あは。おれが何期待しているのか解るわけだ」
くそぉぉぉぉ呑気に笑いやがって
俺は、プイッと横を向いて不機嫌を表した。

兄貴がそろそろと、俺の顔に触れる。
「横向いてる?」
むぅ……わかんねーのかコイツ。それとも解ってとぼけているのか…
怒ってるんだよ。
俺はイライラしていたのに、正守のやつは…
「首筋…舐めて欲しかったんだね…」
へ?

俺が不意を付かれたと同時に、首筋をねっとりと舐めあげられた。
「ひゃあっ」
うわっ咄嗟に変な声がでた口元を押さえる。
「いい声…もっと聞かせてよ」
「んっ……んんっっ」
緩急をつけて舌を滑らせ、所々軽く吸われる…。
キスマークが付いたらどうするんだという緊張が、余計俺を煽った。


徐々に愛撫に流されていく…

兄貴の目が白い布に覆われて見えない…

いつの頃からか、漆黒の瞳に俺だけが映る事を、密かに楽しみにしていた。

兄貴が俺だけのものだって感じたから…

なんで今日は隠しちゃうんだよ…

これじゃ、まるで別の男としているみたいだ。


せめて…声を聴かせて欲しい…
それに、長く上半身を愛撫されていたので、下が辛くて仕方が無い。
「も……早…くぅ…っ」
とうとう堪え切れずに、おねだりしてしまった。
顔から火が出そうだ。

「こう?」
言うと、あろうことか先程から弄っていた乳首を指で素早く擦り始めた。
「や…ちょ………や…やぁぁぁっ……ち……違う…ぅぅ」
こんなのイジメだぁ。
やっと耳に届く兄の声に安堵しながらも、これ以上弄られるのは耐えられなかった。
俺は泣きながら愛撫から逃れようと体をひねったが、難なく押さえつけられ逃げ出すことは叶わなかった。

「ちが……そこ……もう…いっ……そこじゃないぃっ」
絞り出すような声で訴えると、やっと正守が手を止めてくれた。

「じゃあ何処?」
「はっ…はっ……はぁっ」
荒い息も整わないうちに正守が聞いてきた。
わ…解ってるくせにっっ

「ここ!」
俺は苛立ちながら正守の腕を腰へと導いた。
早く触って欲しい…ぎりぎりまで我慢していて、爆発寸前だった。

「これ…触って欲しかったんだ」
俺を掴んで嬉しそうに言う…。
「そ…そうだよ」
開き直って認めてやった。コレでいいんだろう?
「今、どんな状態になってるの?」
「………触ってりゃ解るだろうがっっ勃ってるんだよっっ」
それは解るよ。でも、まだ余裕があるのかとか、聞かなきゃわからないじゃないか…

はっきり言ってそんなわけは無い、正守の手は、俺の先走りでグチュグチュに濡れていたからだ。もう、余裕が無いのなんか解り過ぎるくらいはっきりしてるだろう。

「どんなふうに?」
どーこたえろって言うんだよ。
頭に来て、兄貴の目隠しを乱暴に奪い取ってやった。

目隠しを取られた兄貴は、少し驚いたような顔をしてた後、優しく微笑んだ。
「すごい…色っぽい顔してるね良守。辛かった?」
「あ……あたりまえっ……だろ。…な……なんで……こんな事するんだよ」
とうとう堪えきれなくなった涙が頬を伝い、しゃくり上げながら何とかそれだけは言えた。
「ごめんね。良守。……俺、そんなお前が見たかったんだ…」
優しく俺の足を広げながら覆い被さってきて、待望の場所に自信を埋め込んで行った。

「んっ……んんっ」
気持ちいい…。
慣れた質量に内部が満たされてホッとする。
「す……き。」
吐息に混じるように、たとたどしく言葉を紡ぐ。
「好き…」
動き始めた正守にしがみついて、今度はハッキリと言葉にする。
「正守…すき。」
俺に欲情して息を荒くしている姿が、なぜだかとても愛おしく感じる。

「俺もだ…」
耳に届いた思いがけない返事に心が熱くなった。
「んっ…あっ……も…イクっ」
「いいよ」
耳に届く低い声に促されるように身体が震えた。
「あっ……あっ………あぁぁぁ……っ」
白濁する意識の下で、兄貴が俺の中に放つのをどこかで感じていた。
兄貴が俺のものだって実感できたような気がして、凄く嬉しかった。








「可愛いなぁ……。こういう良守が見たかったんだよね」
少しぼぅっとしている俺に兄貴が話しかけてきた。
「こういうって?」
はぁはぁ…と、荒い息を整えながら兄を見上げると、真剣な面もちで俺を見つめていた。
その真摯な瞳に心拍数が跳ね上がる。

「恥じらう姿って言うかさぁ…最近、お前慣れちゃってつまんなかっただもん」
そう言って、嬉しそうとも意地悪そうとも取れる複雑な笑顔を見せた。
「…………アーーーホーーーーーーーーーーーーーーーっっ」

そんなことの為に目隠し!!
やっぱコイツの恋人なんてやるんじゃなかった。
大後悔だ!!
今からキャンセル可能だろうか…。



いやいや、マンネリHよりは良いじゃん。
工夫してくれる、兄の努力を買おうよw

良守…。
兄貴は返品不可ですよ!!

この話の番外編を本にしました。通販は不定期ですが、オフラインページで内容が少し読めます。

2007.11.2