兄貴の恋人 番外編

 キラキラと半透明に透けるドーム上の飴細工の中に、まるで包み込まれるように大切に守られた小さな小さな可愛らしいケーキが並ぶ。
 駅前に開店した喫茶店に、どこから仕入れるのか ショーケースに並ぶ商品はこのあたりのケーキ屋では見かけないような繊細さがあった…。

 ガラス張りの店内からよく見えるショーケース。
 良守は店員に見つからないようにケーキを眺めようと必死だった。

「うーん。もうちょっと近くで見たいなぁ…。」
 ポケットの小銭を漁ると、920円出てきた。
 ケーキの値段は420円。ケーキセット800円と店外のメニューに記されている。
 ギリギリ足りる…。
 所持金は少々心許ないが、ケーキの魅力には逆らえず、良守は思い切って店内に入っていった。

「うそっ浮気されたの?」
「…………うん。」
 店内の空いた席へ座った途端、後ろの席に座る女性客の会話が耳に飛び込んできた。
 ケーキを待つ幸せのひととき、聞くつもりなど無かったのだが、どうしても聞こえてきてしまう。
 せめて、もう少し小声で喋ってくれればいいのになぁ…。
 そうは思っても注意する度胸は無い。背後の2人はお構いなしに会話を続けた。
「たまたま、その日はその気にならなくてH断っただけなのに……。」
「うんうん、そう言う日ってあるよね。」
「でもまさか、それだけで別の女の所に行っちゃうなんて。」
 最後の方の声は、涙で震えている。

 良守の頼んだケーキが運ばれてきたので食べはじめたが、その女の人はずっと泣き続けてきた。
 ………浮気って、されると辛いもんなのかな。
 正守と関係を持つようになって随分経つが、良守は今まで一度もそんな事を考えた事がなかった。
 ……俺は、別にそんな事しねーけど…。  
 兄貴もするわけねーしな…と、そこまで考えたところで「あれ?俺って兄貴と付き合っているのか?」などと、根本的な所を悩み始める良守であった。

 運ばれてきた舌の上でとろけるケーキは、予想を上回る品だというのに何故かひどく味気ない気がした。

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 ガラガラガラ…
「ただいま。」
 家に帰ると自分宛に荷物が届いていた。
 差出人は兄貴…。
 また、しょうもない物贈ってきたんだろうなぁ…。

 兄貴は最近、俺に贈り物をしてくる。
 しかし、それは決して良守が喜ぶのを基準としては決められていない品々ばかりだった。

 セ…セーラー服……。
 案の定ろくなモノではなかったが、予想を上回る品に流石の良守も言葉を失う。
「結!!」「滅っっ!!」
 はぁ…はぁ…はぁ…肩で荒い息をつきながら、全力で滅する。こんなもん下手に置いといたらマジで着せられかねん…。
「じょ…冗談じゃねーぜ……ぜはーっ……ぜはーっ。」

 ココ最近、兄貴はこの手のモノを送ってくる。
 兄貴の考えている事なんていつも解らないが、それにしても最近の行動は益々不可解だった。こんな物を贈ってきて、一体何が楽しいのか?意図がつかめず、正直怖い。まさか、こんな物、本気で俺に着せる気だろうか?
 良守の背中に寒気が走った。

 正守の背後で爆発してくる式神を送る。 兄貴のことだから気が付くだろうが、こちらが嫌がっているのをシッカリアピールしておかなくては「気に入ったんだね、良守。」などと、次に来たときに言われかねない。

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 式神も送りつけたし…と、少し安心した所に、玄関の呼び鈴が鳴った。
 まだ誰も帰っていないはずだから、仕方なく良守は玄関まで走っていった。

「こんにちわ。正守さんいらっしゃいますか?」
 家に尋ねてきた女性を見て、我が目を疑う。
 あの喫茶店で泣いていた女の人だったから……。

 サラサラと流れる髪が日の光を浴びてツヤツヤして…。
 大きな目が可愛くて…。
 華奢な肩が男の保護欲を誘う。

 こんな………綺麗な人だったんだ。
「う…あ……兄貴は、いま家に居なくて…。すみません。」
 あけっにとられながらも、それだけは何とか口に出来た。 
 この人兄貴の知り合いなのかな?
「いえ、私の方が突然お邪魔いたしましたので。あの…お帰りは何時頃になりますでしょうか?」
「いあ…そうじゃなくて、今はここに住んでないんです。たまには帰ってくるですけど…あ、携帯なら…。」
 女性がガッカリしたのを見て、俺は咄嗟に兄貴の携帯を教えてしまった。
 無断で教えてしまっても良かったのだろうか?
 普通なら、こちらが連絡先を聞いて兄貴に伝えるのが筋なのに…と、気付いたのは、女性が帰ってしまってからだった。

 良守は自室の布団の上で、枕を抱えながら丸まっていた。
 さっきの女の人……。当然、兄貴に電話かけるんだろうな。
 結局なんの用事だったんだろう。
 兄貴の携帯を教えなければ、連絡先のついでに用件も聞き出せたかもしれないのに…俺のバカ。


 とととと…

 とととと……


「何してるんだい?良守。」
「う………、なんでもねー。」
 玄関の廊下をウロウロしていたら、親父に声をかけられた。

「そうかい?もうすぐご飯だから、こっちへおいで。」
「あ……あぁ。」
 声をかけられて、居間へと向かう…。
 玄関で静かに鎮座する黒電話には、とうとう触れなかった…。

 烏森の時間が近付き、いつものように墨村の衣装を身に纏う。着慣れた着物が、今日はやけに重く感じた。
 原因は分かっている。俺はどこかで行きたくないって思っているんだ。
 兄貴が忍んで来るときは、決まって烏森から帰ってきた時だから…。
『待っていたら、来るかもしれない…。』
 確証のない、甘い期待に縋っている。

 何を女々しくなっているんだか… あんなやつ…別に来なくてもいいじゃん。
 半ば自分に呆れながら、天穴を手に玄関に向かう。
 廊下の黒電話には………今日も触れる事は無かった。

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 はぁっ、はぁっ、はぁっ…良守は学校が終わって一目散に家路を急いだ。
 今日は兄貴が帰ってくる!
 今朝、「今夜正守が帰ってくるんだ。」と、父に聞かされた良守は、朝から昼寝も居眠りもせずソワソワと授業を過ごし、鐘が鳴ると同時に矢も楯もたまらず走って家路についた。

 兄貴が帰ってくる!

 一刻も早く逢いたくて家の玄関を開けると、ちょうど今着いたばかりだったのか、玄関の兄貴と鉢合わせた。
 まさか玄関に経っていると思わず、一瞬ドキリと鼓動が跳ねたが、すぐに逢えた嬉しさでいっぱいになった。
「兄貴…。」
「ただいま、良守。」
 優しそうに微笑む兄貴を見てホッとする。よかった。いつもと特に変わったところは無かった。
 良守がホッとするや否や、正守に抱きすくめられた。
「わぁっ。」
「今、誰もいないみたい…。」
 正守の腕に収められ、それだけをそっと伝えられる。
「…ぁ。」
 その言葉が、何を意味するのか分からない良守ではなかった。
 正守に手を引かれて、そのまま良守の自室へと連れてこられた。

 鞄を置き、上着をハンガーに掛ける間に正守が布団を引き始めるのを、ドキドキしながら見ていた。
 ズボンも脱いでしまうか躊躇していると、布団を敷き終わった正守が防音用の結界を張りながら近付いてくる。
「良守…。」
 耳元で囁かれ、期待感から甘い感覚が背を伝い、腰骨まで響いて良守を酔わす。
 頬に手を添えられ、口づけられると、久々の感覚に一気に身体に灯がともる。
「ん……っふぅ。」
 素直に吐息を吐く良守の身体を、手慣れた手つきでボタンを外してまさぐっていく…。

 そんな中、ふと良守が正守の左手に違和感を覚え、その手を見て凍り付いた。
 正守の左手薬指には、指輪がハメられていた…。
「ああ、コレ?」
 指輪を見て固まる良守に構わず、正守は良守の身体に触れる手を一向に止めようとはしない。

 その悪びれること無い態度に、次第に良守の目は伏せられ、徐々に視線は畳へと落とされていった…。
『…何で?』
 どうして何も言ってくれないんだろう?
 正守には、こんな指輪を交わす相手がいるのだろうか?
 俺は?

 俺は兄貴にとってどんな存在なんだ?
 不安で堪らないが、それ以上問いつめる言葉が出てこなかった…。

 ……もし、もし兄貴がその女性に本気だったら、とてもじゃないけど引き留められない。
 何も言わず足下を見つめる良守の腰に、正守の手が伸びる。
「…あ?」
 慣れた手つきでスルリと下着の中へ侵入し、双丘の間に隠れる後口へと、遠慮なくその 長い指を奥深く埋め込んでいった。
「ぐっ…。」
 指とはいえ、急な侵入は痛みを伴う。
 顔を苦痛にゆがめる良守の耳へ、そっと囁く。
「抜いてみなよ…。」
「……え?」
「知りたいんだろう?もし婚約指輪なら、内側にイニシャルが彫ってあるはずだけど?」
 その時はじめて、内部に埋め込まれた指が左手の薬指なのだと気が付いた。

 正守の言葉を聞いて、目の裏がかぁ…と赤くなった。正守の……相手。
「ココで抜くなら、見ていいよ…。」
 指を銜え込む入り口に、自然と力がきゅーっと籠もった。

 内側に…イニシャルが彫ってある?
 布団に座る正守に促され、指を入れられたまま同時にしゃがみ込む。
 内部の指輪を意識して包み込み、内壁で絡めるようにゆっくりと腰を持ち上げていく…。
 少しずつ正守の指から外れていくのを感じる事が出来るが、無情にも第二関節の所でズルリ抜け落ち、指に持ち去られてしまう。
「あ…。」
「ざーんねん。」
 かけられた言葉に、冷や水を浴びせられたようにビクリと緊張して、急速に身体が冷えた…。
「もう一回チャレンジする?」
 正守の言葉に、矢も立てもなく頷いた。
 とても相手を確かめずには、居られなかった…。

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「あ…ン……ふ…ぅっ。」
 やり直すのは何度目だろうか?指輪の存在を内壁で感じながら、慎重にゆっくりと引き抜いていく…。
 正守の節くれ立った指の関節に何度も失敗しながらも、少しずつコツを掴んできた。
 きゅう…っと、包み込むように斜めにして第二関節から外していく…。
 もう少しで通りそう…。

 カリッ……

「ひゃっ……ぁぁあっ。」
 内壁を爪で掻かれた。
 それは内部を傷つけることのない優しいモノだったが、意識が出口付近の指輪に集中していた良守からすれば、予想もしなかった強い刺激に、電流が走ったかのように身体が跳ねた。
 もう少しで抜けるはずだった指輪は、無情にもヌルリと滑り落ちて、持ち主の指に収まる。
「あ〜ぁ。」
「……こ…のっ。」
「あれ?動かさないなんて言ったっけ俺?」
 言いながら激しく指を出し入れして、知り尽くした良守の弱い所とは、ほんの少しズレた場所を擦る。
「あ……あっ……あ…んっ。」
 一番触れて欲しいところのすれすれの所を刺激され、もどかしさのあまり身体の熱が上がる。
「や……ぁっ……あぁ。」
「ほらほら、頑張らないと……見たいんだろう?指輪の内側。」
 耳元で囁かれる残酷なセリフに涙が浮かぶ。
 俺、こんな事までして、一体どうしたいんだろう?
 指輪を外したところで、兄貴は恋人の所へ戻ってしまうに決まっているのに。

 きっともう…俺のことなんか気に掛けてくれない。
 そう思いながらも、良守は弱みを見せまいと必死で涙がこぼれないように上を向く。
 揺らぐ視界の先に、見慣れた天井がやけに近く感じる。
 このまま、押しつぶしてくれればいいのに。兄貴と一緒に…。
「ふっ…うぁ……。」
 内部で蠢く指がそれを許してはくれず、先程まで焦らされていた場所へ、急に強い刺激が与えられた。
 反射的に目を瞑ってしまい、たまっていた涙が、とうとう溢れ出して頬を伝って行く…。

 顎からポタリと鎖骨へ落ちる雫を、正守の舌が追いかけるように這う。
「あっ……あっ……あぁ。」
 ねっとりと舐め上げられ、クラクラする。
 下肢を刺激されながらでは、嫌がおうにも身体が期待してしまう。
「ふ…ふぅ……やぁ。」
「ほら……頑張って指輪抜かないと…。」
 残酷な囁きに、現実へと引き戻される。
 溢れてくる涙を止めることが出来なくて、悔しくてしゃくり上げてしまう。
「ひっ……うっ。」
「泣くなよ…良守。」
 勝手なこと言うな…。
 もう、自分でも止められなくて、子供みたいに泣きじゃくり始めた。
「泣くな…。」
 正守の指が引き抜かれ、両手で俺を抱きしめる。
「泣くな…。」
 まるでそうするのが当たり前かのように、優しく口づけられた。
「んっ……。」
 唇を甘噛みされて、尖らせた舌先で唇をなぞられる。
 ゾクゾクと震えながら耐えていると、舌を差し入れられる。
「ふ……んっむ……あっ。」
 口の中が兄貴の舌でいっぱいになって、溢れる唾液が顎を伝って落ちていく…。
 それはまるでトロトロに溶て行く理性の雫のようだった…。
 兄貴の熱は、俺を全部とかしていく。
 触れ合う肌に空気の風が通るのが嫌で、ピッタリと擦り寄せる。
 嫌…嫌だ……。
 兄貴が他の誰かと、こんな事していたら絶対嫌だ。
 兄貴を抱き寄せる腕に、ぎゅっ……と、力が籠もった。
「……ふ。」
 ?…兄貴が笑った?そっと表情を下から窺うと、見たこともないような優しい顔で俺を見ていた。
 一瞬、心臓が止まってバクバク鳴り出す。
 なんか、すげぇ…恥ずかしい。
「良守が俺の頼みを聞いてくれるなら…この指輪見せてあげるよ。」
「頼み?」
 兄貴が俺に頼みがあるなんてビックリした。今まで成り行きで兄貴の仕事を手伝ったりする事はあったけど、こんなふうに改まって頼まれるのは初めてだったから。

 俺に頼みだなんて、何だろう?と、考えていると「俺が良守に送った荷物ある?」…って聞いてきた。
 荷物ってあのセーラー服とかか?思い当たって青くなる。
 でも、黙っているわけにも行かず「滅した…。」と、伝えると「全部?」って兄貴は聞いてきたので、最後に送ってきた荷物は結局押入に突っ込んで放置していた事を伝えると、兄貴はその中身をごそごそと探り出した。
 ひょっとして、何か大事なモノが一緒に送られてきていたのだろうか…。俺が不安になっていると、兄貴は荷物の中から、どう見ても女子用のスクール水着を持って、こっちにやって来た。
「???」
「良守。」
 真剣な顔にドキリとする。もしかして、この服…他に何か意味あったのか?
「これ、着てくれ。」
「着ると、どうなるの?」
「いいから。」
 訳が分からなかったが、言われたまま身に付けてみた。兄貴のことだから、何か意味があるのかもしれない。女子用の水着を、まさか自分が着ることになるとは今の今まで夢にも思わなかったけど。
 ………これで、どうなるんだろう?
 真っ直ぐ俺を見る正守が、俺の手を掴んで引き寄せる。
 正守の腕の中へと導かれるまま収まると、そのまま強く抱きしめられてキスされた。
「ん……。」
 唇が首筋を伝つつ鎖骨に落ちる頃には、水着の肩ひもは下げられて、胸の飾りを晒す姿になった。
「は……ぁ……やぁっ……ちょ。」
「何?」
 露わになった乳首に吸い付きながら、余裕たっぷりで正守が聞いてくる。
「て………手伝いって?」
 嫌な予感はしつつも恐る恐る聞いてみる。
「俺のお相手。」
 呆気にとられた良守が、にっこりと笑ってそんな事を言い放つ正守を止める術など、持ち合わせている筈も無かった…。
「え?……ちょお……っ。」
「んー?」
 抗議をするも、正守から帰ってくるのはそんな生返事だけだった。
 胸に付いている小さな突起を吸い付いては離し、舌先で転がしては押しつぶす。空いているもう片方も同様に指で責め立てるので、あっという間に息が上がってしまう。
「あ……はぁ……っ。」
 何とか逃れようと身を捩るが、正守との体格差では、逃れることなど適わなかった。
「や……ぁあっ。」
 圧倒的な力差を見せつけられた上、水着に包まれた中心を巧みに刺激される。
「あっ……やぁ…………助け…てっ。」
 強い刺激をあちこちから同時に責められ、逃げ場を無くした良守が音を上げる。
「助けて欲しい?」
 正守の問いに、反射的にコクコクと頷く。
 いつのまにか腰まで下げられた水着は、いまや良守の下半身を圧迫する為だけの邪魔な存在でしかない。
 水着に包まれたままの張りつめた膨らみを、意地の悪い怪しい手つきで何度も刺激しながら、不意に足の間の布地に指をかけ、そのまま横へずらして良守の恥ずかしいところを露わにしてしまう。
「………な。」
 あまりの格好に頭が真っ白になった。上半身は裸で、申し訳程度に下半身を覆っていた布は股の所だけ横へとずらされ、大切な部分が全て露わになってしまっていた。
これなら裸の方がずっとマシである。
「……ひぅっ。」
 抗議しようと思っても声が出なかった。露わになった良守を、いきなり口に含まれてしまったから。
 口腔の滑りと、キスの上手い正守の舌使いでは、たちまち思考が奪われてしまう。
「ひゃぁ……あっ……あ……んぅっっ。」
 膝を立てられ、奥に潜む入り口へとヌメった指が再び侵入してくる。
 先程まで煽られていた上に、散々前を口で刺激されたのでは堪えきれるものでは無かった。
「や……やぁぁ……もぅっ……出るっ。」
 頭が真っ白に弾けてしまいそうな感覚へ包み込まれる寸前に、正守が口を離した。
「……っはぁ、……はぁっ……あ?」
 荒い息を整えつつも、中途半端に帆織り出され、身体の中で暴れ回る欲望をどうすることも出来ず、ただ正守を見つめることしか出来なかった。

 正守は、わざわざ猛った自分のモノを見せつけ、「これ欲しい?」と、悠揚な態度で聞いてきた。
 ここまでしたなら、早くして欲しいに決まっている。これ以上、何やらせる気だ?
 良守が訝しんでいると、正守が覆い被さり耳元で囁く…。
「『ちょうだい、お兄さま』……って言ってごらん?」
「なっ……。」
 あまりの言葉に全身硬直し、背筋を寒さが突き上げる。
「何が楽しいんだ?お前。」
「お兄ちゃんに、『お前』は良く無いなぁ…。良守がビックリした顔して、羞恥に耐えながらセリフ言うのが、最高に楽しいかな♪。」
 にこやかに微笑む正守を見て、先程のおぞましい言葉を口にするしかないことを、良守は悟った…。



「ん…あっ……。」
 ズブズブと自身を犯す質量に慣れた身体は、軽い痛みを伴いながらも快楽への期待に自然と戦慄いた。
 あんな恥ずかしい台詞を言わされたのだ。もう、どれだけ乱れても恥ずかしくないような気がする。
「あ……ぁっ………ぁっ。」
 徐々に自分へ覆い重なってくる正守に、腕を伸ばして縋りつく。
 散々な目には遭ったが、こうしてまだ自分を抱いてくれることに幸福感を覚えているのも事実だった。
「あ……あぁっ。」

「ふぅ…。相変わらず狭いね良守。俺は気持ちいいけど…。」
「あ…。」
 同時に腰を揺すられた。最奥を突く痛みと快感がない交ぜになって、良守の理性も思考も奪ってしまう。
「あっ……やっ……あっぁ。」
 グチュクチュと卑猥な水音を立てる結合部が燃えるように熱い。
「やぁっ……も…イク。」
「もう?まだダメだよ。」
 お前がさっき散々弄ったからだろーーーっっと叫びたいが、声が出てこない。
 必死で震えて耐えていると、正守に根元をギュッと握られた。
「……え?ちょ……ぉっ。やだっ。」
「ダメダメ、まだ付き合ってくれないと。」
「やあぁぁ……。」
 何とか正守から逃れようとするが、身体の中に正守が居る状態で適うはずも無く、
 出口のない苦しさに耐えながら、奥を突かれる快楽を何とかやり過ごさなければならなかった。
「は……ぁっ。……ああ……っやぁっ。ま……正…守ぃ……。」
 泣きながら縋り付くと、とうとう手を離してイかせてくれた。
「あっ……あーーー。あぁぁっ。」
 解放されて放つ間も容赦なく突かれ続けて、最後の記憶は、目の前が真っ白になった事と、どこかへ飛んでいってしまうような浮遊感だった。

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 気が付くと、見慣れた天井が視界に広がった。
「気が付いた?良守。」
「あ……。」
 すぐ隣に兄貴が居たので一瞬驚いたが、同時に先程までの記憶が蘇る。
 まさか…まさか俺……。
「気を失うほど…良かった?」
 体温が一気に上昇する。
 赤くなった顔を見られたくなくて、慌てて兄貴のいない方を向く。

 こちらを振り向こうとしない良守に、正守は左手を見えるように俺の前に持ってきた。
「あ…。」
 そこ手には、まだ指輪が薬指にしっかりと填められたままだった。
 その指輪が目の前でゆっくりと外されていく…。さっきまであんなに苦労して取ろうとしたのが嘘のようだった。

 ふいに、苦労の内容を思い出してしまい、いたたまれなくなってギュッと目を閉じる。
「良守。」
 こんな時の正守の声は、穏やかでとても優しい。
 本人には絶対言わないけど、兄貴の低い艶のある声で名前を呼ばれる度にぞくぞくしてる。
 震えてしまわないように注意しながらそっと目を開くと、指輪を手渡してくれた。
 ……正直、他の女性と交わした指輪を触れるのは辛かったが、確かめないわけには行かなかった。
 内側にはなんて彫られているんだろう…

 ?

 難しい漢字がいっぱい並んでいて、到底良守には読む事が出来なかった。こんな長い名前なハズがないが、かといって書いてある文字の意味が分かるわけでもなかった。
「あれ?もしかして読めない?」
 図星を疲れて項垂れるしかなかった。だって…俺バカだから、わかんねーもん。

「読めなくて悪かったな。」
 そっぽを向いたのに、正守は楽しそうだ。 
「コレはね、呪具。」
「……は?」

「使い方は色々あるけど、たとえば式神の指に填めてやれば、身に付けていた時間分ぐらいは術者と同等の能力を使うことが出来る式神になるとか。」
「……え?だって……。」
 正守が何を言っているのか解らなかった。

「俺、婚約指輪だなんて言ったっけ?」
「内側に……イニシャルが……って。」
 途端に正守が、にっこりと満面の笑みを浮かべる。

「うん。婚・約・指・輪・な・ら、内側に彫ってあるね。」
「〜〜〜〜〜。」
 あまりのことに、言葉も出ない。
「いっやー。可愛かったなぁ…。半分泣きながら必死になっちゃてさぁ…。お兄ちゃん感動しちゃったよ。」
「……………。」
「ところで良守。その衣装、とってもよく似合うよ。」
 言われて自分の姿を見下ろしてしみれば、腰まで下げられた女子用の水着は、股布を大きくずらされ、大事なところ外気に晒されている上、身に覚えのある汚れがこびり付いた情けない姿だった。。



「結局、あの女の人誰だったの?」
「女の人?」
 正守が分からないといった顔をするので、良守は家に尋ねてきた女性の事を話した。
「あー。彼女か……。なんか『着物のあわせってどっちが上だっけ?』って電話掛けてきたな。なんか本当は着付け教えて貰いたかったみたいだけど、俺、その時こっち居なかったから簡単に口で説明したんだった。」
「そ……それだけ…。」
 安心感からか、一気に疲れがでた良守は、そのまま正守の体温と感触を確かめながら、眠りについていった…。

この腕を失わずに済んだ事に、安堵しながら…。




この「兄貴の恋人 番外編」は、2008年5月4日 正守プチオンリーイベント「正守襲来」で出した本を改稿したものです。

今読み直してみると………、当時は、頑張って書いたんですが、エロも文章もダメダメですね。
とか言いながら、たいして進歩してない管理人ですが、来年の結界師オンリーは頑張ろうと思います。

2008.5.4/2009.8.15