あの場所へ

「無駄じゃ。何日かかけてあんたと…この家にまじないをかけた。もう出れん」
「貴様…」


■■■■■


おかしなやつだ…食われるかもしれんのに、何を好き好んで私と一緒に居たがるのか。
「わしは妖といたいんじゃ…。お前と離れるくらいなら、食われて共にある方が幸せじゃ」

この不思議な餌に少し興味がわいた。
家と私に掛けた呪いなぞ、半時も掛からずに破れる…
私はいつでもでていける。

なのに、なぜ出ていかないのか…
「妖…知ってるか?人間の欲望ってのには底がないんじゃ」
「ほう?」
「それで…それでな。わし、妖といられるだけで幸せじゃと思っとったんじゃが…最近、贅沢になってきたんじゃ」
「ほう?」

「口吸い言うのを…してみたいんじゃ…」
「なんだそれは?」
私が聞くと餌は嬉しそうに顔を輝かす。

「知らんならしてみよう。なっなっ?」

「まずは目をつぶるんじゃ…」
「…」
「…」
「…妖ぃ……」
「私が目を閉じるのか?」
私がそう口を開くなり、すごい勢いで首を縦に振る。

よくわからんが目を閉じてみた。
すると…餌が私の口に口を付けてきた。
???

「好きじゃ…」
餌の考えることなど、さっぱり判らない…
でも、餌がなんだか嬉しそうな顔をする。
ふっ…餌がどんな顔をしていようが関係ないのに、なぜ気になるんだろうな…


■■■■■


「だれか死んだのか?」
「兄貴が…あんな丈夫な人が…家も継いだばかりじゃったのに…どうしてー」
餌が悲しんでいる姿は初めてみるな。いつも楽しそうに「何時でも食うてくれ」と言うのに…

「すまん妖。わし、死ねなくなった。」
それから男は人が変わったように働き出した。

「しぶといものだな…」
「すまんな。せめて弟が大きくなるまで働かにゃならん」

「なぜだ?」
男はゆっくりとこちらをみる…
「ワシしかおらんからじゃ」
その笑顔は、いつもの「何時でも食うてくれ」と言う時の顔だった。
「すまんな妖、ワシを食うのはそれまで待ってくれるか?」
「さぁな…」

男はゆっくりと私に近づき、口吸いをしてくる。
「おまえさんが居てくれるから…ワシがんばれるようじゃ。ありがとうな妖」
「…」
「もう少し…触れてもええか?」
「…」
私の顔色を窺いながら、男が着物の襟から手を入れてくる。

男が帯を解くので、また着物を着替えるのか…と思っていたら、男の手は私の身体をまだ触っていた…
一体何をしているのだろう?

食べてしまえば良いではないか…
なのに…何故触れることを許すのか…

それから男とは、何度かそんな夜を迎えた…


■■■■■


男は力無く床に伏していた…生き物が命の火を消す時に出す、特有の気が男にまとわりついていた…
「お前死ぬのか…?」 
「そうみたいだな。本当はもっと藍緋といたかっかったんじゃが、ここまでのようじゃ」
「有り難うな…本当はお前さん、何時でもここを出て行けたんじゃろう?」
「まぁな…」
それを聞くと男は少し笑った。

「死ななくてすむぞ」
「?」
「これを飲めば妖になれる」
「!……藍緋。嬉しいがそれはダメじゃ」
男は私の差し出した薬を受け取らなかった。

「なぜだ?」
「人間は…理から外れてはならん。皆死んでいく…それが普通で当たり前なんじゃ。でも、最後に藍緋に気に掛けてもらえるなんて、わしは果報者じゃ」
「こんな事とても普段じゃ言えないが、これで最後だから言わせてくれ」
「…」
「あんたに会えて良かった…」
そう言い残して、男は息を引き取った。
不思議と死に顔は安らかに微笑んでいるようだった。




呪いが切れたので、家の外へは簡単にでられた…。
主を失った札が、もはや何の呪力もなく壁や柱に張り付いていた。

久々の外…

………

……



私は何を失ったのだろう?




ゴゴゴゴ……
ドォン…ドォォン……
城の地鳴りと爆発音…私は気を失っていたのか…

火黒に受けた傷は、もう再生不可能らしい…
私はずるずると外へ這っていった…

外へ…

外へ…

もうすぐ外に出られる…もう…意識が…
薄れ行く意識の中で、「ああそうか…」と私は自然と理解した。

最後の力を振り絞って種を飛ばす。
風に舞って遠くへと飛ばされていく種…

どうかその中の一つでも……
あの男が眠っている、あの場所へ届きますように…

どうしても城を出たかった…
私は、あの男とであった所へ帰りたかったんだな…

不思議と居心地のよかった。あの場所へまた…



藍緋さんのお話。いかがでしたでしょうか?

これは私がミクシーでコミュからあちこちを読み荒らしてるうちに見つけた日記の中に、とても素敵に藍緋さんを語ってらっしゃる方がいて、私も「饅頭兄さんと藍緋さんの話よみたーい。」…と思って書きました。毎度毎度単純な理由ですな…。管理人単細胞ですので簡単に影響されますw

日記を書かれた方に、影響で書いたのに知らんぷりもな…と思ったので
「あなたの日記に影響を受けて小説書きました」と一応、内容と共にお知らせしました。
怒られませんでした。よかった…

今回はギャグが入ってません。管理人初体験??

2007.5.17