妖混じりの子供たち

 夜行の庭には、完全変化した志々尾が鎖に繋がれ、逃れようともがいていた。

 志々尾が夜行に来てからは、すっかり見慣れたいつもの日常。
 俺は、ぼんやりとその姿を見つめながら昔のことを思い出していた…。

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「君は、ここにいて良いんだよ」
 頭領が、初めて俺に話し掛けてくれた言葉…。

 親からも疎まれ居場所が無かった俺に、そう言って笑いかけてくれた頭領を見たとき、生涯この人に仕えようと思った。

 大嫌いだった妖混じりの能力も、あの人の役に立つなら悪くない気がした。
 夜行に預けられてからと言うもの、毎日一生懸命訓練して能力が完全に支配下に置けるようになった頃、頭領から仕事を任されるようになっていた。

 『妖混じりの疑いのある少年を、夜行に連れてくるように…』
 それが当時の俺にとって、主な仕事になった。
 閃たちも俺が迎えに行っていたから、いつもの調子で「お仲間だ仲良くやろうぜ」…と、初めて志々尾に会ったとき話し掛けた…が、襲いかかってきた志々尾の、その圧倒的な強さに全く歯が立たなかった。

 こんな事は初めてだった。
 一瞬で左腕をもぎ取られ、逃げられてしまった。
 そのスピードも、とても追いつくようなものでは無かった。
 自分ではどうすることも出来なくて、仕方なく応援を要請したとき…来てくれたのは頭領だった…。
「うん。まぁ手空いてたし」
 そう言って、あいつを追っていってしまった…。
 俺が1人で任務をこなせなかったこと…頭領はどう思ったんだろうか?
 そんな考えを巡らせていた時に、突然携帯に電話が掛かってきた。

「翡葉!若い女性一名が重傷 出血が酷い!至急、救護班を手配してくれ!俺は少年を追う!」
 いつも落ち着いている頭領の剣幕に驚きながらも、指示通り救護班を手配して女性を捜した。
 頭領の式神が知らせてくれたので、女性はすぐ見つかった。
 その傷口の鋭さに、思わず息を飲んだ。一歩間違えれば、それは俺の姿だったからだ。
 俺は運良く、左腕一本だったから動けるが、これだけの傷を負わされたらどうなっていたかと思うとゾッとする。

こんなヤツが夜行に来る?
背筋が、薄ら寒くなった…。
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「まだかなぁ…」
 夜行の子供達が、ご馳走を前にソワソワしている。
「しーっ。今、頭領が起こしに行ってるから。少しお話ししたら始まると思うよ」
 そんな子供達をなだめながら夜行のメンツが揃い、宴の準備を整えられた。
 夜行に新しいメンバーが増えるときには、毎回こうやって祝う。
 今こうやって皆が一同に集まっているのは、他でもないあの、妖混じりの子供を歓迎するために…。

「ねね。翡葉、その志々尾限ってどんな子?」
 そういって俺に聞きに来たのは亜十羅さんだった。
「どんなって…おれは完全変化して暴れ回る姿と、気絶した状態しか見てないから…」
「そっかぁ…どんな子かなぁ。楽しみだな♪」
 そう言って亜十羅さんはウキウキしている…。そんな楽しそうなヤツじゃないのに…。
「あの…亜十羅さん」
「ん?何?」
「そいつ…実の姉を手に掛けてたんです。一命は取り留めたものの、凄い傷跡で…俺だって一瞬で左腕を持って行かれた。」
 それだけ警告しておく、亜十羅さんまであいつの餌食になって欲しくなかったからだ。
 なのに…、返ってきたのは全く予想外の言葉だった。
「きっと、その子…怖かったんだと思うわ」

 宴が始まると、みんなそいつを囲って大盛り上がりだった。
 戸惑いながらも暗い顔をして座るそいつを、みんなが囲って一生懸命励まそうとしている。

 面白くなかった。
 指導役は亜十羅さんだが、彼女が任務で夜行を離れる時、志々尾を止めるのはいつの間にか俺の役目になって行った。
 まだ餓鬼なせいか、些細な事ですぐにぶち切れて変化しようとしやがる…。
 手間が掛かる…。

 俺は段々、コイツのことが視界に入るだけでイライラするようになっていた。
 …なのに、頭領や上の人からは志々尾は随分かまってもらっているように見えた。

 後から考えれば…、それは志々尾が何時までも溶け込まないことを心配してのことだったんだろうが、その時の俺には志々尾が憎たらしく映るばかりだった。

 ある日…
 志々尾が又、暴走した。仕方ない…と、いつものように毒をぶち込む。
 苦しんでやがる…ざまーみろ。
 正直いい気味だった。暴走を止めるという名目で何してもいいんだからな。

 ぼんやりと志々尾が静かになるのを待っていたが、いつもなら倒れる量の毒をぶち込んだのに、今日は立ち上がりやがった。
 本能的に身の危険を感じ、俺は志々尾に倍の量にもなる毒を、新たに突き立てていた…。
「グオォォォ…」
 断末魔にも似た悲鳴を上げて、志々尾が倒れる。
 咄嗟の事に手加減できず、あり得ない量を差し込んでしまって殺してしまったのかとゾッとする。

 慌てて志々尾に駆け寄ると、眠っているだけだった。
 無事なことを確認してホッとはしたものの……毒が効きにくくなってる?
 嫌な予感がした。
 定期的に体内へ入り込む毒に、耐性が付くのは別に珍しい事じゃない。
 ただ…これからは志々尾を押さえ込むのが、難しくなって来るという事を暗に示唆していた。

 案の定、あれから志々尾には少しずつ耐性が出来てきたようで、押さえ込むのに段々苦労するようになってきた。
 このままでは、いずれ自分一人では抑えきれなくなるだろう。

 もし、そうなったら…
 頭領は、俺にガッカリするだろうか…

 毒の効力を上げる方法はある。
 志々尾の身体の中で抗体が形成されているなら、それを破壊すればいい。
 毒は、俺の血で出来ている。
 俺の血を直接飲ませれば、体内の抗体を破壊して、また毒は良く効くようになるだろう…
 一度そう言った方法を取れば定期的に入れる必要性が出てくるが、まぁいい。

 でも、血を飲むなんて楽な方法…誰が選ばせるか。
 俺は…別のものを志々尾に入れてやる事に決めた。
 お前なんか、もっとずっと苦しい目にあえば良いんだよ。



「志々尾。ちょっと来い」
 志々尾は、命令には従順に従う奴だ。
 俺が呼ぶと、志々尾は無言でこちらにやって来る。
 ………いつものことだ。コイツは、極力俺と口をきかないようにしている。
「ついてこい…」
 でも、今日はそれが逆に楽だ…余計なことは聞かずに、のこのこと後を付いて来る。

 暫く歩いて、夜行の鍛錬場に付く。
 庭が手狭な時などによく使う修行場で、わりと人の出入りは激しく、俺も志々尾も慣れ親しんだ場所だ。
 でも、今夜は誰もいない…。
 少し大きな案件で、主だった戦闘員は出払ってしまっているからだ。
「志々尾…今日は、修行でここに来たんじゃないんだぜ」
 志々尾は、いつものように修行でもすると思っていたようだ。
 視線で「じゃあ、何をしに?」とでも言いたげに、冷めた瞳で俺に問うてきた。

「最近、俺の毒が効きにくくなってきたから、効き目を上げるために呼んだんだよ」
「……」
 言いながら、休憩のための小屋へと上がる。
 志々尾も後に付いてきたから、部屋に入ったところで肩を掴んで力任せに畳に引き倒してやった。
「……っ」
 乱暴な扱いに少しだけ呻いて、起き上がろうとする志々尾にのしかかる。
「翡葉さん?」
「やっと口効いたな…。せいぜい、良い声で鳴いてくれよ…」
 それだけ言うと志々尾の服を脱がしに掛かった…が、中2とはいえ戦闘能力は志々尾の方が圧倒的に上だ。
 まともに暴れられては、適うはずなど無い…が…。
「つまんない手間かせさせるなよ…お前は存在自体が邪魔なんだからよ」
 途端に、逃れようとした志々尾が大人しくなった。

「どうしてこんなマネされるのか不思議か?お前の身体の中に俺の体液を入れると、毒の効きが良くなるんだよ…」
「え?」
 志々尾の瞳が不安げに揺れる…。
 そう言えば…今まで、こんな近くでコイツを見た事なんて…一度だってなかったな…。
「ちゃんと人間らしい顔も出来るんだな…」
 俺は真っ直ぐ志々尾の目を見つめながら、顔を近づけていった…。

 唇に触れると、意外に柔らかい。
 歯列を割って舌を差し入れると、志々尾の身体がビクッと緊張した。
 こいつ…初めてなのかな?まーそーだろうな。近付くヤツなんて1人も居なかったろうし…。
 少し気分が良くなった俺は、志々尾の顎を持ち上げて蹂躙しやすい角度を取り、存分に口内を味わい始めた。
「ん…」
 志々尾が大人しくしているのを良いことに、服を脱がせていく…。
「良い格好だぜ…志々尾」
 膝を立たせ、潤いもないまま指をねじ込んでやると、突然のことに志々尾が身体を強ばらせ、反射的に志々尾の手が俺の頭部を攻撃してきた。
 その手は虚しく空を切る。
 咄嗟に頭を縮めなかったら、命がなかったかもしれない…。
「すっ…すみません」
 慌てて謝る志々尾に、怒号を込めて言い放つ。
「また…反射的に暴走しました…か?」
「!」
 途端に表情が凍り付いた。
「だからお前には…毒がすぐ効くようにしておかなくちゃいけないんだよ。」
 冷たく言い放ったものの、冷や汗が流れる…本当に間一髪だった。

 直接触れるのは危険と判断した俺は、腕を変化させ蔦を志々尾の手足に巻き付けた。
「うっ…」
 まるでキリストのようにつり上げてやると、志々尾は不安げにこちらを見つめてくる…。
 口で言うより、直接判らせてやるほうが楽しそうだ…。

 手始めに触手の2〜3本を志々尾の口の中に含ませて、口内をたっぷりと犯してやることにした。
「んっ…ぅ」
 苦しさからか、志々尾の目尻に涙が滲む……溢れる唾液が頬を伝い、顎から胸に落ちて行く…。
 その筋を辿るように触手を滑らせ、普段より縮こまってそうな志々尾に絡めてやった。
「!」
 志々尾は少し緊張したが、嫌がったりはしなかった。
 ただ、顔はこの上なく不安そうに俺を見つめていたので、いつものように顔色一つ変えず、視線を合わせてやる。

 目が合うと反らすのはコイツのクセだ…弱そうな所を追い上げてやると、困ったような顔をしながらも頬が上気していくのが見て取れる。
 形を成してきたソレから先走りの透明な滴が涙を流し始めると、指先で先端に塗りつけてやった。

「んっ…」
 初めて聞く艶のある声…。
 追い立てるように絡めてやると、断片的ではあるが志々尾の声が少しずつ漏れ聞こえ始めた…。

「ふっ……ぁ………んんっ」
 志々尾は、声を噛み殺そうとして必死で唇を噛む。
 そうすることで余計感じてしまうと言うのに…。

 辛そうに眉根を寄せる志々尾の姿は、俺の欲情を煽った。
 増える触手は執拗に絡みつき、主人の目を楽しませるためにそれぞれ意志を持ったかのように獲物を嬲りに行く…。
「あ…あっ……」

 嫌がって身を捩るが、無数の触手をふせぎきれるものではない、志々尾の手をすり抜けて肌を這い回り、声の上がるところを一つ一つ丁寧にせめて、少しずつ正気を奪っていき、そのうちの何本かの触手が志々尾の秘部へと侵入していく。
「や…やぁっ……助けて……」
 にゅるにゅると身体の奥に入り込んでくるそれに、志々尾は内壁を締め上げることで侵入を拒む。
 仕方がないので別の触手が細くなり、志々尾の尿道に侵入していった。

「うぁっ……」
 自分では触れる事の不可能な場所を、初めて他人に弄られる不快感に鳥肌が立つ。
 流石にそちらは防ぎようがないようだ。
 そちらに気を取られた事で、力の抜けた秘部の触手も難なく奥へと進んでいける。

「ひっ…ひぁぁぁっ……や…やだぁ」
 志々尾はガタガタと震えだし、我を忘れて頭を振る。
 いつもすました顔をしているくせに、泣きながら俺に助けを求めてくる。

 いい気味だ…自然に口元に笑みが広がる。
 俺は腰のベルトをわざわざ志々尾に聞かせるようにカチャカチャとわざと音を立ててはずしながら近付いていく…。

 意図を察したのか志々尾の表情が一瞬で固くなる。
「こうされるのは、気持ちいいのか?」
「……」
「もっと、悦くしてやるよ…」
 俺は笑いながら青ざめ震える志々尾の片足を持ち上げ、先程まで触手が暴れていたその場所に、無理矢理ねじ込んでやった。
「ぐ…あぁぁっ……いっ…いた………っ翡葉さ…っ」

 俺の触手で自由にならない手足を引きつらせ、耐え難き激痛に悲鳴を上げる。
 青ざめてがくがくと震える志々尾を眺めるのは、ひどく良い気分だった。
 自分より強い者を組み敷く喜びに震える。
「あっ…あぁっっ」
 少し滑りが良くなった。中を傷つけたようだから、おそらく血だろう…。
 かまわず腰を振ってやると、志々尾から更なる悲痛な叫びが上がる。
「ひ…ぃっ……つぅっっ……がぁっっ」

「いい顔だ…」
 クックック…と、のどの奥で笑う。
「もっと、良い声で鳴けよ…。」
 そう言って揺すってやった。
「……うっ」
「俺をもっと楽しませてみろ…よっ」
 痛みに戦慄く幼さの残る身体を、容赦なく突き上げて更に傷を抉ってやる。

「うっ……う゛ぁぁっ……」
 苦痛に歪む顔を見つめるだけでゾクゾクしてくる。
 締め付けてくる内壁に、血の滑りまかせて腰を穿つ。
「あ…っぁぁ……」
 頬に伝う一筋の涙が、光って顎を伝い胸へと落ちた。
 落ちたところを舐め上げてやると、志々尾の身体がビクリと反応する。
 面白くなって右手であちこち触れてやると、そのたびに志々尾がビクビクと反応を返す。
 いつの間にか志々尾のオスは堅くなり、形を成し始める。
「んっ……」
 それと、ほぼ同時に発せられる艶のある声…。
 明らかに今までのものとは違う。
 繋がってしまえば愛し合う恋人同士であろうと、身体だけの関係であろうと変わらなかった。
 お互い出してしまうことしか考えられなくなって、二人して高まっていく。
「はっ…はぁ……あぁ…ん」
「くっ…」
 志々尾の身体が硬直し、ふるえが走ると共に俺も志々尾の中へと精を解き放っていた。

 ずるりと引き抜かれたそこから、血と精液のないまぜになったものが太股を伝う…。
「汚ねぇなぁ…」
 左腕を元に戻しながらそんな感想を漏らす。
「うっ……」
 つり上げられた状態から、床へとたたきつけられ、身体中の痛みにうめき声が漏れる。
「まぁ、そうやってろよ…お前にお似合いだぜ」
 自分だけ身支度を整えて鍛錬場を後にする。
 放って置いても志々尾は妖混じりだ。しかも統合型。あんな傷夕食までには完全にふさがるだろう。
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 月明かりに照らされて、限は目を覚ます。
 身体の傷はふさがっていて、何処も痛くは無かった。
 ただ、気分は最悪で、とても起きあがる気になれなかった…。

 気持ち悪くて吐くかと思ったのに……。
 不思議と嫌じゃなかった。
 翡葉さんが俺を抱いたとき。

 初めて…人の肌に触れたような気がした。

 こんな行為自体は、正直俺には良く理解できなかった……
 あまりにも刺激が強すぎて、痛いのか熱いのか気持ちいいのか…
 ただ、印象に残っているのは人の肌の感触…
 今まで、俺にあんな風に触れてくる人は居なかった。

 腫れ物に触るかのように扱われるのが当たり前で…
 翡葉さんだけが初めて俺に触れてくれた。

 あんな形でも、正直…人と触れ合うのが心地よかった。
 あんな風に触れてもらったことなど…今まで一度もなかったから。

 胸が詰まって、その苦しさを押し殺そうとして涙が流れた。
「う……っうく」
 心が震える。
 翡葉さんは…単に嫌がらせに俺を抱いただけだ…。
 そんな事、判ってる。

 なのに…心のどこかで、人肌と触れ合えた事が嬉しくて仕方がなかった。
 夜行に来てから、はじめてだったから…。

 正確に言えば…姉を失ってから初めて感じた人の温かさだった。
 もう、2度と手に入らないと…ずっと諦めていたものがこんな形で手にはいるなんて…
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「翡葉、何処行ってたの?限しらない?」
 夜行に戻ると、亜十羅さんが志々尾を探して俺に話し掛けてきた。
「見たよ。鍛錬場にいた」
 俺の言葉に亜十羅さんは嬉しそうな顔をした。
「そっか。限頑張ってるんだ」
 頑張ってたのは全然別のことだけどね…ま、暴走を止める修行っちゃー修行かも。

「あ、帰ってきた」
 亜十羅さんの言葉に驚いて後ろを振り返ると、志々尾がとぼとぼとこちらにやってくる。
「限。鍛錬場行ってたんだってね。一言行ってくれれば一緒にいくのに」
 志々尾は亜十羅さんの視線を避けるように目をそらす。……ま、そりゃそうだろうな。
 ふ…と、志々尾が俺を見る。
 弱々しい視線は、先程の情事の記憶をまざまざと思い出させる。






 お前は…そうやって俺を見ていれば良いんだよ。
 これからも、ずっと…



 以前出したコピー本です。
 そのままupは買ってくださっ方に申し訳ないので少々改訂してありますが、大幅な変更は有りません。

 志々尾には幸せになって欲しかったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
 回想で出てきてくれただけでも凄く嬉しかったよ。
 また、本誌でみたいなぁ…。

発刊 2007.10.08/改訂 2009.6.29