火種 「…え?」 「どうした?時音」 夜の烏森学園。いつものように良守が持参したケーキを二人で食べていた時、時音が声を発した。いつもは隣に座るが、今日はたまたま向かい合わせに座っていただけだ、ただ、それだけだったのだが、時音は有ることに気が付いてしまった。 「なんでもない」 いぶかしがる良守を後に、時音は妖退治に精を出す。 ■■■■■ 「ふぅ…」 「どうしたんだい?ハニー今日はなんか元気ないよ」 雪村家に戻ってから、白尾が話しかけてきた。 「もう、そのことには触れないで、何でもないの。お休みなさい白尾」 それだけ言い残すと時音は振り返りもせず家へと入った。 自室に入り、先程の光景を思い出す… いったい何時から… 良守と向かいに座ったときに、見えた数字…。 27.5 その数字は良守の靴の裏にハッキリとそう記されていた。 「靴が…なんか大きいなとは思ったのよ…」 それで、つい、サイズを見てしまった。 時音はクラスの男子達のサイズを知らないが、市販で出回るサイズの主流くらいは判る。 27.5と言えばかなり大きい。 そして、時音の知識から考えても生き物というものは足の大きさを見れば身長が判るものである。 身体が大きくなる前に、それを支える手足が大きくなる。 つまり、良守は大きくなるのだ。 きっと時音よりずっと… 「何か考えも付かない。良守が私より大きくなるなんて…」 横たわりながら天井に向かって独り言をつぶやく… そう言えば、手も大きかった。 今でも良守は私を守ろうと、私の前に立とうとするのに あの背中がもっと逞しくなったら… 私ったら何考えてるのよ。 目を強く閉じ、布団を被って時音はそのまま眠ってしまった。 この気持ちは、きっと起こしてはいけないから… この火種が燃え上がったら きっと止められない。
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