了解

 ピチャピチャと室内に響く水音が、酷く耳元で聞こえる。
 顔のすぐ横には、綺麗な筋肉で覆われた兄貴の脚が見えた。

「……んっ……ぐっ」
 口技とは呼ぶにはほど遠い…たどたどしい舌使いで、口いっぱい含んだ兄に必死になって舌を絡めた。
 口内に入りきらない根元へは指を絡め、その指先が濡れていくのを感じながら、きつく吸い上げる。
「……っ」
 吐息のようなものが兄の口から漏れ、少し勝ち誇ったような気分を味わった。
「!……んぅっ」
 途端にお換えしとばかりに、スルリと上から手が伸びてきて、悪戯な指先で胸の突起を弄だす。
「ふ……っふぅんっ…」
 胸の刺激は体中を奮わせ、身を捩ったくらいでは逃れる事はできず、その震えはまとわりつくように腰に集まっていった。
 先程から身体の中で、鈍い音を響かせて”ヴーッ”と振動している無機質なおもちゃに、呼応するように。


「ほら、良守。頑張らないと入れてあげないよ?コ…レ…。」
 そう言って、ほんの少し腰を揺らされ、口内に含まれた先端で上顎をなぞられた。
「んあっ……」
 口を開くと、クチャ…と、粘着質な音が響いて、羞恥を煽る。
 体内に埋め込まれた長いローターの変わりに、それで刺激される瞬間を頭の中で思い描き、体中に快感が走った。

「も……やだっ。」
 張りつめたそれを口から外し、力の入らない腕で押し返すが、逆に腕を捕られて簡単に引き寄せられてしまった。
「どうして嫌なんだ?これ、好きだろう?」 
 欲情を含んだ声で囁かれ、堪らず吐息が漏れる。

「あ、そうか。もう、挿れて欲しかったんだ。」
「な……違っ」
「ふーん………違うんだ?」

「…………」
 欲しくないわけが無い……。きっともう、顔だってまっ赤だ。
 揺れる視界からも、目が潤んでいるのが分かる。
 欲しがってるのなんか、一目見りゃわかんだろうっ!

「おいで」
 届いた声に反応し、熱に浮かされたかのようにふらりと立ち上がった。
 椅子に座る正守の太股の上へ、ゆっくりと抱きつきながら片足を置き、兄の肩口へ顎を乗せて、自らの奥まった場所へと手を伸ばし、細いコードの先にある、体内に埋め込まれた異物を引きずり出す。
「……んっ」
 身体の中にあったときは”ヴーー”と小さな音だったのに、出された途端ビィィィィィィィと高い音が響き渡る。
 振り子のように振れるおもちゃが手に当たり、生暖かく濡れていることに羞恥を覚えた。

「気持ちよかった?」
 絶妙のタイミングで飛んでくる正守の揶揄を聞き流し、異物を床に投げ捨てて、向かい合わせに乗り上げた。
「……ふぅっ……んんっ」
 先程まで口に含んでいた正守が、濡れた先端から内部を押し広げ、侵入をはかる…。

 しかし、身体は欲していても、自分で身体を貫くには勇気が必要だった。
 躊躇していると、目の前の兄貴が満足げに笑みを浮かべている。

 「なんとかしろ」…と、目で訴えると、「しょーがないなぁ…」と言って首筋をペロリと舐められた。
「あ…」
 這い上がる快楽に、それ以上声も出せなくなった。
 胸の突起を円を描くように舌先でくすぐられ、体が震えだす…。
 とろけるように力が抜け、ズブズブと身の内へ飲み込まれてく……。陰茎の形までリアルに感じてしまい、恥ずかしさが余計に官能を誘い出す。

 それでも…、正守の身体に縋り付いて全てを埋め込み、ピッタリと隙間無く肌を合わせる。この心地よさが堪らなく好きだ。

 初めてこうされたときは、何の知識もなく無理矢理組み敷かれたが、何度も身体を開かされる内に、いつのまにか、こちらの方がすっかり嵌っていた。
 ゆさっ…と、腰を振られ、中を掻き回されて頭が真っ白になる。肌に触れる兄の指が気持ちよくて、もっともっとして欲しくてどんな淫らな要求にも、応えるようになっていった。


    ◆   ◆   ◆


 いつから、こんな事が悦くなったんだろう?
 疑問が浮かんでも、身体の中に兄貴を迎えると、そんなことどうでも良くなってくる。

 ただ、ひたすら気持ちいい。
 こうされるのが堪らなく嬉しくて、自分ではもう抜け出せそうもない。
 ギシギシと、椅子のスプリングが軋む。
 壊れるんじゃないだろうかと頭の端で思いながらも、もうそんなものどうでもよくなって、夢中で腰を振り続けた。

「……?」
 人が頑張ってるのに、兄貴はごそごそと何かしていた。
 見てみると、兄の手元には先ほどのローターがあった。床に落としたはずなのに、コードで手繰り寄せたのか、兄の手の中にあった。
 ローターに被せてあったコンドームが、目の前でゆっくりと外されていった…。

「ひゃっ……やぁぁぁっ……あぁぁっ」
 2人の間で涙を零していた先端に、ローターをほんの少し触れさせただけなのに、体中に電流が走った。
 震える指では兄を止めることが出来なくて、自然と涙が零れた。気持ちよくて泣いているのか、本当に泣きたいのかすら、もう自分では分からなかった。
 生理的な涙を流しながら目の前の兄に縋り付き、ローターで刺激されるたびに身体の中にある兄貴を反射的に締め上げてしまい、どうしても意識がそちらに集中してしまう。
「あ……ぁっ……ぁぁ」
 だらしなく開けられた口からは、唾液が伝い落ち…、涙も後から後から零れて止まらない。
 気持ちよすぎて、どうにかなってしまいそうだった。

「もう、俺以外じゃ満足できないだろ?」
 突然囁かれた言葉に、ぼぅ…と、した頭では、ぼんやりとしか理解できない。

 それでも、確かにそうだと思った。
 この腕の中に居られなくなる日が来るなんて想像も付かなかった。
 首に手を回して、噛みつくようにキスをする。
「…っなら………、せ……き…にん…とれ」
 震える声で、それだけ伝えると、急に不安になった。
 今まで、一度だって未来(さき)の事など、一度も口にしたことが無い。

「あっ!!」
 突然、正守が腰を上げた。
 俺の脚を抱えて、繋がったままで。
「ちょ……っっ。なっ」
 不安定な姿勢に、慌てて正守にしがみついた。

 そのまま歩いて運ばれてるので、どうしていいか分からなかった。そういうプレイがあるのは知識では知ってはいたが、聞くとされるのでは大違いだ!!怖くて恥ずかしくて頭が真っ白になる。

 しかし、すぐにイスの側に敷いてある布団へと、ゆっくり降ろされた。
 ほんの数歩だったのに、緊張しまくってガチガチになっていた事に気付く。
 ホッとしたと思ったら、そのまま脚を胸に突くほど折り曲げられて、正守が覆い被さってきた。

 深く犯される事に酔いしれてる耳元に、「了解」…と、低い声でささやかれた。
 先ほどの返事であることに気づき、徐々に意味を理解しだして、気恥ずかしいさを感じながらも、どこかで安堵している自分に驚かされる。
 一体、いつの間にこんなに好きになってしまったのだろう?

 そろりと唇を合わせながら、ぎゅっ…と、正守を抱きしめた。
 これが、返事だって気付よ……。



久々の結界師!今回は短いですね。エッチシーンだけだし。
でも、良守が幸せそうだからいっかヽ(´ー`)ノ

2009.1.2