HEAVEN 和姦編
「監督って恋人男だったんだってー」
「「え――――――――――――!」」
今日は、俺が入ってから初めての練習試合だった。
真新しい試合用のユニフォームを持って、いつもの通り更衣室に顔を出すと、チームのみんながそんな話をしていた。
「マジかよ…」
「本当だよ。監督が言ってたんだもん」
「男同士の恋人って、Hとかどうやってするの?」
「さぁ?」
口々に皆が喋り始めると、情報を持ってきた奴が意を決したように口を開いた。
「ケツの穴に入れるらしい…」
一瞬の間。予想も付かない情報に、チームメイトにどよめきが走った。
「ナニソレ?そんなの気持ちいいの?」
「さぁ?でもやっぱ最初は痛いって話だぜ」
「冗談じゃねーぜ、やっぱ女の方がいいよなぁ」
皆、一様にうんうんと頷く。
「恥ずかしいから暗くして…とか言われてぇ」
「俺は、『あぁ〜ん、もっと』とかの方が好み!」
「あははは、なんだそりゃ〜」
俺は、俺は…と、話が弾み「元希は?」と話を振られて、一斉に注目が集まった。
「お…俺……は、『先にお風呂に入らせて』…とかかな…」
場の空気に合わせた返事を返すだけで精一杯だった。
監督の恋人が男だったなんて驚きだ。しかも、何故か今はもういないらしい。そっちの方がなぜだかよっぽど気になった。
胸の奥が、妙にチクチクする。別に、監督が誰と付き合おうと関係ないのに…。
何となく面白くないのは、孤立しかかっていた俺を受け入れてくれたのが監督だったからだろうな。
俺のために特別メニューを作って来てくれたり、怪我の事なんて、俺以上に気に掛けてくれた。
あんなふうに、大事にしてもらえる人が、他にもいたんだなって思ったら、少し寂しかった。
「早く、グラウンドの整備しろよー。相手チームが着いてからやるわけにはいかないぞ!」
遠くから、俺達を呼ぶ監督の声が響いた。
「「はーい」」
監督の号令で、みんな一斉にトンボを持って、グラウンドへ走って行った。
今日は、相手チームがうちのグラウンドへ来ることになっている。俺も投げさせて貰えることになっていたから、初めての硬球での試合に、少し緊張していたのに…。
それでも、試合前に整列する頃には、先程までのエロ話など、まるで無かったかのように、みんな真剣で…。
その日の試合にも、勝つ事が出来た。
やっぱり勝利は嬉しい。
しかし、俺は試合後のミーティングで、監督からのお知らせを聞いて凍り付いた。
「えー。今日は試合だったから、終わるまで余計なことを考えさせたくなくて、結局、今まで黙っていたんだが……。監督が明日から復帰できるので、俺の代理監督は今日までなんだ」
ざわっ…と、チームの皆が一斉にザワついた。
「一ヶ月ちょっとの間だったが、俺も色々勉強になったし、何より楽しかった。みんな有り難うな」
「もう、来ないの?」
チームメイトの1人が、監督にそう質問した。
「来るよ…たまにはね」
そう言って、監督は笑った…。
監督が居なくなるなんて、考えたこともなかった。
そりゃ、最初に戸田北を選んだ理由は、監督が女だったからだ。
俺のことを、放って置いてくれると思って…。
なのに、1日で代理の監督に変わってしまった。
まぁ、代理ならそんなに気合いを入れないだろうと、そんな事ばかり考えていた。
そんな俺を、監督は気遣ってくれるんだ。
八〇球しか投げないとか、我が儘言ったのに、馬鹿にしたりせず聞き入れてくれた。
俺を見捨てた、学校の監督がチラチラと脳裏に過ぎる。
監督がいなくなっても、次に来るのはあの女性監督だ。同じ目に遭うわけがないと、分かっているのに…。
「うわぁっ元希!何、泣いてるんだ」
「え?」
「監督と別れるのそんな寂しいのかー?」
「また、来てくれるって言ってんじゃんかよー…」
気が付くと、一筋の涙が頬を伝っていた。チームメイトは馬鹿にしたりせず、俺を慰めてくれる。
「な…泣いてねーよ。汗が目に入っただけだっ。」
そう言って拭って、しらを切る。…いつの間にか、戸田北がこんなも大切な場所になってた。
初めてこのチームに来たとき、誰も俺の球を捕れなくてクサってたのに、それを受け入れてくれたのは監督だった。
怪我をして以来、初めて他人に受け入れられたような気がした。
やっと……やっと、また…大人を信じることが出来るようになり始めてたのに…。
監督交代のショックに、更衣室で1人ボーッとしていたら、着替えるのが遅くなってしまった。
何人か気遣って声を掛けてくれたが、「大丈夫」って笑って見せたら、みんな先に帰ってくれた。
何をするでもなく時を過ごし、1時間近く経過した頃、やっと帰る気になって着替えようとロッカーを開けたところに、更衣室に監督が入ってきた。
「まだ居たのか。みんなとっくに帰ったぞ」
俺も、監督がまだいるとは思わなくてビックリした。
「………知ってます。」
「どうした?どこか具合でも悪いのか?調子が悪いなら…」
「あ…いや、大丈夫です。」
優しい声に、胸が詰まる。
また来るとは、ミーティングの時に言ってた。別にこれっきり逢えなくなる訳じゃない。
それでも…、段々と足が遠のいていくんだと考えただけで、急に胸が苦しくなる。
ふと、監督の恋人の存在が脳裏をよぎった。
「監督の恋人って…男だったんですよね?」
「え?あぁ………まぁな。」
唐突な質問だったのに、監督はこちらを見ずに答えてくれた。その時の、ふわりと見せた笑顔にドキリとした。
何て言うか…、その人のことがまだ好きなのが、はっきり伝わってきたんだ。
「でも……、もう、その人は居ないんですよね?」
「………あぁ。」
何を言ってるんだろう?俺は。
途端に監督の笑顔は曇り、寂しそうに俺を見た。
監督は、普段あまり表情を出さない。
なのに、どうしてか今日はすぐ顔色に出ていた。
何故か「今しかない」って、根拠も無くそう感じた。素顔を見せてくれる監督には、もう会えないような気がした。
「俺…を、恋人にしてくれませんか?」
「……………………え?」
今朝、監督の恋人が男だと聞かなければ、こんな事、考えもつかなかったと思う。
今は監督の側にいる為には、どうすればいいか…。それしか考えられなかった。
そっと監督の顔色を窺ってみる。
良かった。嫌悪はされてないみたいだ。
「監督は男が好きなんでしょう?前の恋人がもういないなら、俺が新しい恋人じゃ、ダメ…かな?」
できるだけ、明るく振る舞ってお願いしてみる。こういうとき、どんな風に言えば良いのか分からなかったから。
重くならないように、普段の俺なら絶対言えなかったけど、「今日で最後」という事実が、俺の背中を後押ししていた。
「ちょ…、ちょっと待て、言ってること分かってんのか?」
監督は、俺の顔の前にストップと言った意味を込めて、手で制止しながら確認してきた。
「分かって…ます」
そうは言ったものの、この時の俺は「恋人」って存在がどういうものなのか、漠然とした認識でしか捕らえてなかった。
デートしたり、Hしたりするんだよな?…といった、程度の知識しかない。
そのセックスだって、痛いのを我慢すればそれでいいだけだって思ってた…。とにかく、何でもいいから監督の側にいたかった。
「俺じゃ……ダメ?監督の好みじゃない?」
少し、首を傾げて聞いてみた。告白してくる女が、よくやってた仕草だ。その時は、何とも思わなかったけど、相手の反応が知りたいと、自然とこうなるんだな…。
「そんな事は無いが…」
「なら、問題ねーじゃん」
拒否られなかったのが、嬉しかった。でも、監督の顔は眉間にしわを寄せていて、何だか怒っているようだった。
怒られるのかな…ってドキドキしていたら、監督が俺のすぐ側まで近付いてきて、ロッカーを背に立っていた、俺の両側にそっと手を着いた。
「男同士でどういうことするのか、知ってるのか?」
「一応…知識としては」
監督を窺うように見つめているとゆっくりと監督の顔が近付いてきて、キスされた。
正直、初めての経験でどうしていいのか分からない。
乾いた唇が、何度か触れ合って、『これがキスの感覚なのか…』…なんて、考えていたら、監督の舌が滑り込んできた。
ビックリしすぎて、身動きも出来ないでいると、柔らかい監督の舌が、俺の口の中をなぞる度に、背筋から腰にかけて淡いシビレのようなものが走った。
徐々に息苦しくなってくるのに、止めたくなくて監督の服をそっと掴んで耐えた。
どのくらい時間が経ったのか…、随分長い時間キスしていたようにも感じるし、数十秒だったかもしれない。
身体からは力が抜けきって、立っているのもつらくなった頃、監督がそっと身体を放してくれた。
「車、回すから…着替えておいで。」
耳元で囁かれた、監督の上擦った声に、ドキリとした。
監督も、興奮してくれてたのかな。監督は自分のロッカーから荷物を取り出して、更衣室を出ていってしまった。
車回すって……、そう言うことだよな…。男同士って、気持ち悪いと思ってたのに、キスだけで凄く気持ちよかった。
……でも、痛いんだよな…。
でも、キスはメチャクチャ気持ちよかった。俺は、いっぺんでキスが気に入ってしまった。
ドキドキしながら着替えて、服をバッグにグチャグチャに突っ込んで、更衣室を後にした。
外に出ると、グラウンドの側に止めてあった車の中で、監督が待っていた。
「あ、すみません」
慌てて駆け寄ると、「いいよ」って優しく笑って、中から助手席のドアを開けてくれた。
「何処いこうか?」
「え?」
助手席に座り込んだ途端、そう聞かれて、拍子抜けしてしまう。
てっきり、このままホテルにでも行くのかと思っていたから。
「がっかりした?」
「え?」
図星を指されて、赤面する。まさか期待してんのか?俺。
「メシでも食いに行こうと思ったんだけど…」
え?あ、なんだ。言われてみれ腹がペコペコだ。そう意識すると、食事のことで頭が一杯になった。
「でっかい、ハンバーグが食いたい!」
「了解」
力一杯宣言すると、監督は軽く笑って、車を走らせた。
走り始めると、監督は俺に携帯を手渡した。
「?」
「お家に、遅くなるって連絡して。俺の奢りで送別会するからとでも」
「あ、はい」
そか、心配するものな。電話を架けようと二つ折りの携帯を開いたら、「あ、でも…」と、監督が続けた。
「既に、いつもの帰宅時間より、かなり遅いよな」
「どっか寄ったりする日もあるから、まだ大丈夫ですよ。」
時計の針は、夜9時半を示していた。シニアの練習は8時までだから、心配するほどの時間はまだ経過していなかった。
「でも、今からメシ食ってたら、帰りは深夜になるだろう?今夜は泊まるって伝えておいて」
「あ、はい」
それもそうかと思って、家に電話した。「ご飯がいらないなら言いなさい」と文句を言いいながらも、外泊の許可はあっさり出された。
携帯を返しながら、ふと気付く。
………もしかして俺、今、監督に『お持ち帰り』されてるんじゃ。
自分で考えて、すげぇ恥ずかしくなった。監督は、そんなつもり全然無いかもしれないのに。
ハンバーグの専門店に連れてってくれたので、そこで食事した後、レンタル屋に寄って監督の部屋へとやって来た。何だか、普通に遊んでくれて、すげぇ楽しかった。
「お邪魔しまーす」
部屋を見回し、違和感に気付く。
「監督って1人暮らしなんですか?」
「そうだよ。実家からだと大学が遠くてね」
へー…。家族で暮らしている俺には、1人用の家具も家電も新鮮だった。1人暮らしって、いいな。”アコガレの1人暮らし”を満喫している監督は、何だか益々大人に見えた。
「何か飲む?」
言われて覗いた冷蔵庫の中には、ビールが一杯入ってた。
監督はミネラルウォーターとビールを取り出し、水の方を俺に寄越した。そのラベルを見て少し驚く。
「あれ?俺が普段飲んでるやつと一緒だ」
「それは良かった。」
監督は嬉しそうに笑ってるけど、このミネラルウォーターは、そのへんのコンビニやスーパーでは売って無くて。わざわざ取り寄せないと手に入らない。
同じメーカーを監督も飲んでるんだと思うと、何だか不思議な気分だった。
部屋でくつろぎ始めた頃、テレビが切り換えられ、監督がレンタル屋で借りてきたブルーレイの再生を始めた。
何が始まるんだろうと、見ていたのに、CMが始まって心臓が跳ね上がった。初まったのがAVだったからだ。
CMが次々と切り替わるが、どれもこれもソレ系だった。
大勢でなら見たこと有るけど、何て言うかモザイクも超薄くて、ここまでエロ度が高そうなのは、見たことが無かった。
漸くして本編が始まると、女の人が後ろから胸を揉まれながら「オッパイおっきいね…」なんて言われてる。
どんどん服を脱がされてって、モザイク処理されるような卑猥な場所が、画面に大きく映し出された。
その場所へ男の指が伸びると、女性がしなやかに喘いで…。
「随分熱心だね…」
「うわぁっ!」
突然話し掛けられて、ビクついた上に、デカイ声出しちまった。は……恥ずかしい。これを借りてきたのは監督じゃんよ。
気が付くと、監督が俺のすぐ側にいて、その腕がゆっくりと俺の身体を引き寄せた。
「あ…」
抱き込まれて、どうしていいのか分からない。
監督の顔が近付いてきて、「キスされる」って思ったら、さっきの気持ちいいキスを思い出した。
「ん…」
さっきと同じ、舌を絡めるキスに夢中になっていると、監督の手が段々と下の方へ伸びていく。
唇も自然と、首筋へ伝ってきて…
「あ……ちょっ……監督」
「ん?」
「お…俺、風呂に…。汗いっぱいかいたし…」
唐突に、試合後で泥まみれになった身体が恥ずかしくなった。まさか、自分でこの台詞を言うハメになるとは…。
人生って本当に何が起こるか分からない…。
俺は監督から逃げるように、水回りと思われるドアへと飛び込んだ。
監督から逃れることに夢中で、電気をつけるのを忘れた。
真っ暗なそこに立っていると、監督が外から明かりを付けてくれた。
ドアを開けて「使い方分かる?」って聞かれて見てみると、そこはユニットバスだった。
一度も使ったことが無かったけど、シャワーなら普通に使えそうな形だったので、コクコクと頷くと、監督は少し微笑んで出ていった。
待たせちゃ悪いと思い、慌てて服を脱いでユニットバスに飛び込んだ。
カーテンを引くと、何故かブラシが置いてあった。掃除用具を釣ってあるのか。1人暮らしはなかなか合理的だと思いながら身体を洗って外へ出てみると、監督は普通のバラエティー番組を見ながら、部屋でゆっくりくつろいでいた。
「髪も洗ったんだね」
え?洗うもんじゃないの?監督を見ると、可笑しそうに笑ってる。何か失敗した気分。でも、埃だらけだったし、風呂に入ったら普通洗うだろう。
「じゃ、俺も入ろうかな」
そういって監督はバスルームに消えていった。むむぅ…俺、なんか変なことしたんだろうか?
俺の格好はと言えば、濡れ髪にバスタオル一枚という姿。
髪をよく拭いて、暖房の前に座って髪を乾かしながら監督を待つことにした。
バスルームからは、水音が響いてる。今からする事を想像して、身体が熱くなった。
電気とか、消しておいた方がいいんだろうか??
うわーん。分かんねぇぇぇ。こんな事なら、もっとチームのみんなに詳しく聞いておけば良かった。
軽く後悔しているところに、監督が出てきた。
部屋で座ってる俺に近付いてきて、テレビを消して、俺の目の前に手を差し出すので、何となくその手に、お手でもするように重ねた。
そのまま手を引かれるので立ち上がると、監督はベッドまで俺を連れて歩いていく…。
うわっ、うわっ…うわぁ……。
なんか、凄くラブラブっぽくねぇ?手ぇ繋いでベッドまで行くなんて、すげぇ恥ずかしい。綺麗にベッドメイクされた上掛けを剥いで俺を座らせると、そのままキスして押し倒された。
うわーっ!うわーっ!うわーっっ。
俺はもう、完全にパニックだった。
目の前に迫る監督の肩の筋肉が、『男』を意識させる。
蛍光灯の明かりが目の入り、眩しくて目を細めていると、監督が俺の頭の上に手を伸ばし、何かを手に取った。
それが照明に向けられると、ピッ…ピッ…と音がする度に、部屋の明かりが落ちていく…。
薄闇の中、監督の手が俺の腰と背に回ってきて、そのまま力強く抱きしめられ、身動きもままならない。
されるがままになっているのせいか、なんか本当に女にでもなった気分…。
俺が複雑な気分を味わっている間も、監督はコトを進めてくる。やっぱ監督はキスが上手いと思う。すごく気持ちいい。
俺からも舌を伸ばすと、その舌を絡め取られて深く口づけられた。この方がさっきよりずっと気持ちよかった。
一体、何処まで気持ちよくなれるんだろう?
気が付くと、腰に巻いていたバスタオルが、いつのまにか無くなっていた。脱がすのも、上手すぎ…。
さらけ出された肌に、監督の手が這い回って、めちゃくちゃ恥ずかしい。
それに……なんか、随分手慣れてる。
俺がちょっとでも『気持ちいい』って感じる所を、羽根で触れるような絶妙な力加減で刺激してくる。
「…………ぁ……」
無意識に声が上がってた。監督を見ると、監督も興奮してくれてるみたいで、少し安心した。
「んぅ……、あ……ぁっ」
意識がぼんやりとしてきて、無意識に声が漏れだした頃、堅くなっている俺のモノを、パクリと食べられた。
「ひあぁっ」
温かく柔らかい粘膜に突然覆われて、うねうねと吸い付かれる。初めての感覚に、俺はすぐ達してしまった。
ゴクッ…って、信じがたい音が聞こえた。飲んだ?飲んだ??飲んだの?
俺が軽くパニックに陥っているのに、監督は俺の太股に、チュッ…と唇を落とし、ヘッドボードに備え付けられた引出しから、何かを取り出した。
「?」
「ローション…。元希が怪我しないようにね…」
……ベッドにローションが用意してあるなんて、エロくね??
前の恋人の存在をまざまざと感じてしまい、俺は心中複雑だった…。
すぐに使うかと思ったのに、監督は自分の掌に出して、その手を握りしめた。
「何、してるの??」
「温めてるんだよ。このまま使ったんじゃ、冷たいからね」
言われて納得したけど、本当に手慣れてるなぁ…。ローションが握りしめられた監督の手が怪しげに動いて、あの繊細な指に今から触られるんだと思うと、何だか身体だがザワザワしてくる。
ようやくローションが暖まったのか、監督の濡れた手が俺の足の間へと伸びてきた。
「ん……」
恥ずかしいけど、ヌルヌルして気持ちいい。
次第に手は奥へと這わされ、後口の入り口をなぞり、ツプリ…と、内部へと侵入してきた。
「ひ…っ」
「緊張しないで…。大丈夫だから」
そうは言われても、初めての感覚にどうしていいのか分からない。
身体の中を静かに出入りする指の動きに、ただ黙って耐えていた。
頭の中では、チームメイトの「すげぇ痛いらしい」と言う台詞がグルグル回ってる。
「どんな感じ?」
微妙な沈黙を破って、監督がそんな事を聞いてきた。
「どんな…って、……何か……変な感じがする」
指だけだとそんなに痛くない。ローションの恩恵で引きつることも無く、中を行き来して蠢いてる。ムズムズするような感覚が、ざわざわしてるけど…。こんなの表現しろと言われても、なかなか難しい。
「そう?…変な感じがするんだ?」
…何で、その『変な感じ』を、わざわざ強調するんだよ…。
なんだか、その『変な感じ』を妙に意識しちゃって、ますます恥ずかしくなる。
「あっ……っ」
急に増した圧迫感に、思わず声が漏れた。
「指…増やしたの分かる?」
「わ……かんな…」
急に増した圧迫感をやり過ごそうと、ゆっくり息をしていると、監督が内部の指をバラバラに動かしてきて、指が増やされた事を、急激に意識した。
「う……わっ」
「……痛い?」
心配そうに聞かれて、慌てて首を振ってしまう。
「何でもない。ただ、ちょっとビックリしただけ…。」
「そか。」
安心したように笑う監督に、ドキッてした。
こんな所を弄られてるのに、俺、絶対オカシイ。
段々気持ちよくなってきて、前が堅くなってるのが分かる。
監督は、震えて勃ち上がるそれにキスを落とした。
「あっ…」
そのまま、唇は裏筋を辿るように徐々に降りていき、その奥に潜む、指で広げられたソコへ舌が潜り込んできた。
「んぁっ…」
指とは明らかに違うその感覚に目眩がする。こんな事、するなんて聞いてねーよっ。
でも、今更後へは引けなかった。さっき達したばかりの前は、痛いくらい勃ちあがって、先端からは透明な雫が零れ、何より舌で舐められている、場所が気持ちよくて仕方がなかった。
やっと舌が抜かれたと思ったら、指を3本まで増やされて、散々嬲られた後、足を広げて抱え上げられた。
取らされたポーズを、恥ずかしいと感じる間もなく、監督の雄があてがわれた。
さっきまで散々弄られて、ぬらぬらになってるソコへ、熱く猛ったモノが、ゆっくりと挿ってくる…。
「…………ぅくっ」
入り口の所が、限界まで広がっていく…。苦しいし、裂けないかと思うと恐怖さえ覚えた。
「んぁっ…」
後ろにばかり意識を集中していたら、不意に先端を指で弄られた。
「あぁっ……」
自分で触っても、絶対ココまで気持ちよくなれない…。腰が蕩けるような感覚に陶酔していると、ぬぷって…、ソコが広がって、先端部分が収まりきったことを悟った。
先端が入ってしまえば、幹の部分は案外すんなりと進む。
それでも、迫り上がってくる嘔吐感と圧迫感が凄くて、俺は監督の背に腕を回し、縋り付く事でようやく耐えていた。
「挿った…」
「はぁ……っはぁ……はっ」
肩口で監督の声を聞きながら、俺は上がった息を整えるのがやっとだ。
「大丈夫?」
やっべ、なんか心配させちゃったみたいだ。
大丈夫か大丈夫じゃないかの基準ってどこにあるのか分からなかったが、取りあえず切れてはいないようだし、コクコクと頷いてみせた。
もし、大丈夫じゃないなんて、答えてしまったら……
「どこがどう大丈夫じゃないのか」を、説明するハメになるかと思ったから。
「……少し、慣らそうね」
慣らす?
意味が分からずじっとしていると、監督が腰をゆっくりと回し始めた。
身体の中に収まっている監督の分身で掻き回されて、形までハッキリ意識してしまう。
あまりの卑猥さに目眩まで覚えた。何なんだよコレ!挿れたら擦るもんじゃねーの??
グリッ…と、悦いところを抉られて、目の前で星が飛ぶ。
「はっ……あっ……あぁぁ……。」
「気持ち悦く、なってきた?」
なんだこれ?腰が全部持って行かれたような感覚だった。
「あっ……あっ……やだ……何か、オカシク………なっ」
動きを止めて欲しくて、必死に訴えるのに、監督の動きは徐々に回す動きから、ピストン運動に変わり始めた。
「あ……あっつ………やぁっ」
「オカシクなっていいよ」
監督の声が遠くに聞こえるのに、ぐちゅぐちゅと、ローションで音を立てるソコから蕩けて、段々、どこからが自分の身体なのかも、分からなくなってく……。
「ひあっ……あっ……あぁ……あー………ん」
耳に届く粘着質な水音が、やけに響く。その音がする度に、監督のが出入りしているんだと思うと、顔から火を噴きそうな思いにかられた。
でも、やたらと気持ちよくて、そこから自力で這い上がる事なんて、もう出来そうもない。
身じろいだ時、丁度監督が奥を突いてきて、自分から動くともっと気持ちいい事に気が付いた。
そしたらもう、ジッとしてなんかいられなかった。
監督の動きに合わせて腰を振り、快楽を追いかけることだけに夢中になった。
「あ…も、イク…」
荒い息でやっとそれだけを伝えると、「俺も」って監督が言ってくれた。
導かれるまま絶頂に達すると、奥で何かが弾けるような感じがして、監督も俺の中に出したのが分かった。
「ふっ…あっ、………ぁーっ。」
ズルリと監督が退いて、そこから何かが排泄されたかのように抜けていく。
「ん…っ」
ピクリと反応する俺を、監督が見ていた。
すっ……凄かった。
身体はまだ火照って、心臓がバクバク言ってる。
身体の奥が濡れているのが分かると、何故濡れているのか嫌でも考えてしまう。
あまりの恥ずかしさに硬直していると、監督が自分を見つめていることに気が付いた。
すごーく優しい目で俺のことを見ていて、ドキドキする。
監督の手が俺の顔に添えられて、「好きだよ」って言われた。
その瞬間、心拍数が跳ね上がって、急に監督がまともに見れないくらい、意識した。
もしかして俺、自覚が無かっただけなのか?
ただ単に、監督に逢うことだけが目的なら、何も身体まで差し出そうとは思わなかったと思う。
そう考えると、無性に恥ずかしくなってきた。
監督の顔が近付いてくる。キスしようとしているのが分かって目を閉じたが、よく考えたら、さっき俺の、あんな所舐めてたよな…。肛門を舐められたことを思い出し、正直、口洗ってくれないかな…などと内心考えていたが、言い出せずに覚悟を決めてキスしてみたら、特に何の味もしなかったので、ホッとした。これなら平気だ。
「元希さん、もう一回…」
「え?」
元希さんって呼ばれたのもビックリしたし、もう一回?何を?混乱する俺に、監督の手が絡みついてくる。
腰に当たる監督は、既に堅くなっていて…。今したばかりの身体が、覚え立ての性に過敏に反応を示した。
気持ちは戸惑っているのに、身体の方は期待していた。
「んぁ…あっ、あ……」
俺の片足を肩に担いだ状態で、監督が膝立ちになる。
俺の足は上下に大きく開かれ、釣り上げられた足の間に、監督が再び、挿ってきた。
2回目の挿入はスムーズで、先程より深く繋がっていた。
「あ…ちょ…っ、ん……くぅっ…。」
監督は、腰の浮いた不安定な姿勢で受け入れている俺の、肩に担がれた方の足をシッカリと捕らえて、腰を使い始めた。
「あっ…あぁっ……っ」
激しい抽挿が繰り返されるうちに、先走りや内部に出された監督の精液が溢れ出して、足を伝って垂れていく。
あまりのいやらしさに目眩すら覚えるが、それすら快感に変わる。
もう、監督の事以外何も考えられなくなっていた。
馬鹿みたいに腰振って、鼻に抜けるような甘い声で、散々喘いでいた気がする。
こんな快楽がこの世にあるなんて、今日まで知らなかった。
◇ ◇ ◇
ぼんやりしていると、頬に冷たい物があたった。さっきの飲みかけで放っておいた、ミネラルウォーターだった。
冷蔵庫に戻してあったのか、ひんやりと冷たくて、心地よかった。
受け取って飲み干すと、身体に染み渡るようだ。
「お風呂、入ろうか?」
まだ怠かったけど、身体がベタベタしていたので、こくりと頷いた。手を引かれて、バスルームまで連れて行いかれる…。
なんか、監督ってすげぇ過保護。
恋人にはこんなに甘いんだ…。そう思うと、その『特別の場所』にいられることが、なんだか嬉しかった。
促されるままユニットバスの中に入ると、監督も入ってきて、シャワーカーテンが引かれた。
カーテンの向こう側にある浴室の明かりが、まるで2人だけの世界になったかのように錯覚する。
シャワーがお湯に変わるのを待っている間、監督が俺を後ろから抱きしめてきて、寒い浴室の中、回された腕と背が温かかった。
俺が寒くないように気遣ってくれてるんだと分かると、余計にドキドキしてきた。
シャワーが温まると、俺の身体に丁寧にお湯をかけてくれた。
「熱くない?」
聞かれてコクリと頷く。お湯の温度は、丁度良かった。
「さっきから、何も喋らないね…。悦くなかった?」
「!…そっ、いや……凄く、気持ちよかった…………です。」
そこまで言わなくても良かったのに。俺のバカ!
身体が暖まるまで流してくれた後、監督は風呂の中にあった掃除用のブラシだと思っていたものを手に取った。
「?」
何に使うかが分からず、不思議そうに見ていると監督はそのブラシにボディーシャンプーをかけて泡立て始めた。そーっと触ると、ブラシの毛がすごく柔らかくて、案外気持ちよさそうだ。これって、身体を洗うものだったのか…。
1人で納得していると、「使ったこと無い?」って聞かれたので素直に頷くと、監督の持つブラシが俺へと伸びてきた。
うわっ…腕を洗われて、そのクシュクシュした感触が気持ちいいって思った。監督が「ボディブラシって言うんだよ」って説明してくれた。
こんなふうに使うものなんだ…。確かに背中とか手が届きやすいかも。
そんな事を考えている間も、監督は俺の身体を洗ってくれている。
しかし、腕とかは良かったんだけど、それが肩まで上がってきて、首筋を洗われ始めた頃には、くすぐったくて仕方がなかった。
「あの…自分で洗います」
「ダーメ」
その低い声にまた変に意識してしまってドキドキする。
何で、監督の声ってこうエロいんだろう…。そんな事を考えている間に、ボディブラシは首筋から背中へと、俺の身体を柔らかく泡立てていった。
くすぐったさに身を捩るが、ブラシは俺を追いかけてくる。
「ふ…っ」
やば…。声出ちまう。目の前の浴槽のヘリに掴まって、何とか刺激に耐えた。
たった数時間で、俺の身体どうなっちまったんだろう?
さっきまでの行為が、頭の中でグルグル回って、監督が俺の中に入ってきた瞬間を、何度も何度も繰り返して思い出す。
自然と監督を受け入れていたところに、力が籠もった。
前の方も、徐々に形を成し初めて、やべぇ…って思った。なのに、監督のブラシはどんどんヤバイ所へ向かっている。
「ひぁ…っ!」
尻を洗っていたブラシが、股の間を通って、前を洗い始めた。
「や…ちょぉ……っ」
堪らず足を閉じるが、間に挟まったブラシが行き来するのを止めることは出来ず、杖の部分まで擦れて感じてしまう。でも、今更足を開くなんて到底出来なかった。開いたら最後、どんなふうに洗われるのかと、考えただけでおかしくなりそうだった。
「くぅ……も……やめ…っ」
絶対、意図的にやってるに決まってる。
もう、立っているのもやっとの状態だ…。気付いてないわけがないのに、一向に止める気配がない。
……………………………………監督って、結構スケベ。
ガクリと膝をつくと、やっとブラシを足へと移動してくれた。足のつま先に到達する頃には、「早く終わってくれ」と、浴槽内に膝立ちのまま、ヘリにしがみつき、それだけを願っていた。
洗い終わってシャワーが掛けられ始め、ホッとするものの、泡で隠れていた欲情の証も同時に露わになる。
からかわれる事を覚悟していたのに、監督の指が先程まで受け入れていた、俺の身体の中に入ってきた。
「あっ……なん…で」
指は奥深く潜り込むと、中を抉るように掻いて出ていった。
「あっ…あぁっ!やだっ」
腰を引いて逃げても、狭い浴槽では大して逃げられない。
「ヤダって言われても…。中まで洗わないと…」
「…え?」
中を洗う?
「お風呂上がっても、“俺の”が、中から出ちゃうから」
「!」
「だから……、ね。大人しくしてて…」
監督の指が、再び伸びてくる…。
「やだっ…っ!ヤダヤダヤダ。」
ヤダって……沢山言ったのに、監督の指は容赦なく俺の中にズブリと埋め込まれ、内部を探るように蠢いた後、再び内壁を掻くように出ていった。
「あっ……ぁぁぁっ」
ビクビクと反応する身体を、止める事なんて出来なかった。
浴槽内に声が響いて、隣に筒抜けるんじゃないかと、ドキドキした。
「感じちゃったんだ?」
聞くまでもないだろっ!振り向いて睨んでやると、監督の股間が目に入る。
「…………………………………………・」
「そんな顔するなよ。そんな元希の姿見て、反応しないわけ無いだろう?」
「……や」
「よく言う…」
監督の唇から赤い舌が覗いて、何となく見ていただけなのに、その舌が…そのまま舌なめずりをした。
「あっ…あぁぁっあ――――――っ」
監督が挿ってくる感覚に、身体全部が持って行かれる。
「声、大きすぎ……もうちょっと押さえられる?」
「や……む…りぃ…っ」
壁に掛けられたシャワーに頭を突っ込んで、何とか声が響かないようにはなったが、ただでさえ息苦しいのに、余計に息苦しくなった。
でも、顔を出せば、浴室内に派手な声が響いてしまう。
それだけは、なんとしても避けたかった。
監督が半分まで埋め込まれていたソレを、一気に残りをねじ込んできた。
「あ……あっ…あ゛あ゛っぁぁーっ」
シャワーから頭を出した時には、もう意識は朦朧として、何も考えられなくなっていた。
あぐらを掻いた監督の上に、座るような体位を取らされ、下から突かれた。
「あ…あっ……あっ」
いつの間にか前を握られ、空いた手は俺の胸を這い回り、朱に染まった突起を悪戯して弄ぶ。
身体のあちこちからくる、痺れるような快楽に身を浸しながら、自らも腰を振る。
頭の中が、ソレしか考えられなくなっていた。
剥き出しの首筋を甘噛みされて達してしまい、監督も俺の中で達したのが分かった。
ドクドクと身体の奥で脈打つそれを感じて、「また、洗われるのかな…」なんて、どこか遠くで考えながら、俺の記憶はそこで途切れてしまった。
◇ ◇ ◇
「元希さん!元希さんっ!」
意識を失った元希さんを咄嗟に抱き留めたが、グッタリしたまま動かなかった。
浴槽に頭をぶつけないように、抱き上げてベッドまで連れて行き、冷やし枕で頭を冷やしてやりながら身体を拭き、甲斐甲斐しく世話をした。
肩だけは冷やさないようにバスタオルを掛けて、うちわで扇いでやったが、顔も身体も赤いままで、のぼせさせてしまったことを反省する。
いや、他にもっと反省すべき事があるだろう…。
まだ中学生の元希さんに、手を出してしまった。
自己嫌悪に陥ったところで、時間は戻らない。戻ったところで、我慢できたかどうかの自身もなかった。
でも、元の世界に帰れないのなら、せめてこの人が大人になるまで待つべきだったのに…。
そよそよと送られてくる風に、肌の赤みが引いていく。
「俺、責任取りますから。」
意識の無い元希さんに、そっと呟いた。
身体の火照りが治まったのを確認して、布団を掛けてやる。隣に潜り込むと、触れ合う素肌が心地よかった。
朝起きたら何て言おう…。「ずっと一緒にいたい」だなんて、この人は承諾してくれるだろうか?
………素直には聞いてくれないだろうな。
まぁ、いいや。時間はゆっくりある。そんな事を考えているうちに、俺は眠りに落ちていった。
◇ ◇ ◇
目を開くと、見知らぬ白い天井が見えた。
状況を把握しようと辺りを見回すと、点滴が見えた。
頭の上を見ると「阿部隆也」と書かれた札がベッドに掲げられている。
な……。
起きあがって自分の身体を見ると、包帯は巻いているが、どこも欠損していなかった。
「……うっ」
それが分かって安堵した途端、身体に痛みが走った。その痛みが、これが現実だと言うことを教えていた。
「元希さん…」
携帯を探すが、荷物らしき物は辺りになかった。
ベッドの横にロッカーがあるが、手が届く位置ではなく、管だらけの身体では、ベッドを降りられなかった。
ナースコールを見つけて、ボタンを押そうと手を伸ばしかけた時、部屋のドアがガチャリと開かれ、入ってきた人物に目を奪われた。
「タカヤ!気が付いたのか、おめー心配したんだぜー」
にぱーっと笑う元希さんが、あまりにもいつも通りで、思わず涙が出そうになった。
「逢いたかったです」
「俺もだぜ。おめー5日も寝てたしよー。本当に心配したんだぜー」
5日…。あの世界では、一ヶ月以上過ごしたつもりでいたのに…。
目の前にいる元希さんが、元気そうでほっとする。
「元希さん、怪我は?」
「打ち身とかだった。タカヤが庇ってくれたんだぜ」
「俺が?」
「おぼえてねーの?」
そう言えば、とっさに伏せたとき考えたのは、元希さんの身体だった。
怪我をさせたくない。それだけを願って…
だからなのか?元希さんに怪我をさせたくないと強く思う原因は、シニアに来る前のあの膝の怪我だ。
「タカヤ?おーい」
「あ…」
話し掛けられて気が付くと、元希さんが心配そうな顔をして覗き込んできた。
「いや…その、なんでもありません。随分、長い夢を見ていたもので」
心配掛けまいと笑うが、元希さんは変な顔をしている。
「どんな夢だった?」
「え?…ああ、元希さんが中学生になって出てくるんですよ。俺は何故か今のままでシニアの臨時監督することになって、そしたらそのチームに元希さんがいて…」
ソコまで喋ると、元希さんが目を丸くして頬を赤らめた。
「元希さん?」
「………なんでもねぇ」
ぷいっと、目をそらして黙り込む姿は、明らかにいつもの様子と違う。
捕まえて問いただしたいけど、元希さんは微妙に俺の手が届かないところに立っている。
「何でもないってことは、無いでしょう?言いたいことがあるなら言ってください。」
そう言うと、元希さんは躊躇いながら口を開いた。
「……お前、………俺に何かした?」
「え?」
元希さんは、それだけを口にすると、微妙な顔で俺を盗み見るような視線を送ってきた。
「中学生の俺に…」
「な……っ!」
「俺は、事故で気ぃ失ったりしなかったけど、夜寝るたびに夢の中でシニア時代の俺になってて、大人のタカヤに出会うんだ。起きたら全部思い出すんだけど、夢の中じゃ記憶とかもあの頃のままで、普通に中学生やってて…。」
「あの……」
まさかとは思いつつ、確かめたくて話し掛けるが、元希さんはそのまま話を続けた。
「んでよー。」
「はい。」
「お前……、中学生の俺に、……その、な……何か、しなかったか?」
ああ…これはもう確定だ。
「しました。」
死刑判決を受ける覚悟で白状した。
………………………
……………
………
「助平(ぼそっ…)」
「な…っ、元希さんが誘ってきたんじゃないスか。」
「ばっ……。ちげーよ!俺はしたかったんじゃなくて、離れるの嫌だなーって思っただけだぞ!タカヤがいらやしいんだぞ。このムッツリ!」
「ム…」
俺は起きあがっていた身体から力を抜き、ベッドに身体を沈めた。
「タカヤ?」
そっぽを向いてしまった俺に、元希さんがそーっと近付いてくる。
「捕まえた!」
俺の顔を覗き込もうとしたところを捕まえて、羽交い締めにしてやる。
「なっ…おいっ」
「やっと、捕まえました。もう放しませんからね。」
「………別に、最初から何処へも行ってねーだろ。……タカヤの方こそ、帰ってこねぇかと思った。」
「………」
「ずっと寝たままだし…。」
「すみません」
そっか、心配かけちゃいましたね。
元希さんが心配してくれていたのが分かると、嬉しく感じるから我ながら勝手なものだ。
中学生の元希さんに、言いそびれた言葉。
それを今のあなたに伝えても、構わないでしょうか?
和姦編はこれにて終了です。この話と強姦編1が「HEAVEN」の内容になります。
表紙を描いてくれた遥海ちゃん。ありがとー☆
2009.02.10
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