真面目な時音の嫉妬心

「ただいま」
あれ?いつもなら良守が飛んできて「お帰り」って言ってくれるのに…

「時音。お帰りなさいっ。待ってたのよ」
「ただいま。お母さん」
挨拶するものの、母の落ち着きのない態度は明らかにいつもと違っていた。

「どうかしたの?」
「あのね、昨夜烏森に行ったきり、良守君が帰らないのよ」
「なっ…!!」

「利守君の話じゃ、正守さんが昨夜来られたそうなんだけど」
時音は家の車に飛び乗り、烏森へ向かった。





バンッ
車から降りるのももどかしく、学校の壁まで走って人目に付かないよう注意しながらひらりと侵入する。
もう、11時だ…生徒達が普通に登校していると言うことは、妖にやられたとかではないようだ。時音は少しばかり安堵した。

正守と良守の二人がいて妖にやられるなど、そうそう考えられないがこの時間まで戻らないなんて、何かあったに違いなかった。

一体…
「!…利守君」
「あ…義姉(ねぇ)さん」

授業中のはずなのに、利守君が式神を使って二人を捜していてくれたようだ。
でも、顔を見れば判る。二人はまだ見つかってないんだわ…
「何か手がかりは?」
聞いては見るが、やはり首を振るだけだ。
どうしてこういうときに限っておばあちゃんも繁守さんも老人会の旅行なんかに仲良く出かけるのよ。

時音は頭を抱え込んでしまうが、祖母の言葉を思い出す。
「常に思慮深く、冷静に自分のすべきことを、出来ることを考えよ」
私に出来ること…

「式神(しき)!」
時音の放ったハト型の式神は校内とくまなく飛び回る。

式神達に命じた言葉は、歪んだ空間を探せ…

正守と良守が消えるほどの事があったのなら、学校が無事というのはおかしい。
二人はどこかへ移動したか、別空間にいるに違いなかった。

仮にどこかへ移動したとしても、その痕跡なら残っているはず。
落ち着いて…
神経を集中させ、研ぎ澄ませる。
結界師は空間を滑る能力。正守と良守ほどの術者なら、何かしら大きな力を使った痕跡が残っているはず。
正守さんはともかく、良守は術の痕跡を跡形もなく消す事が出来ない。

お願い何か残っていて…
「これ…義姉さんがやってるの?」
時音の集中力に引き寄せられた力に、利守は敏感に察知した。

「あった」
力の歪みと言ったモノは、そこいら中にある。
ただ、結界師の造った物は違う流を放つ。

時音は他とは違うその歪みに賭けた。
どうか、ここに良守の手がかりがありますようにー。

もし、異世界に繋がっていれば命が危ない。
それでも…時音は空間を読み、歪みの中へ躊躇いもせず入っていった。

「あっ義姉さんっ」
利守君の声が、最後に遠く聞こえた…



どのくらい歩いただろう…
明かり?
時音が足を踏み入れたその瞬間。

「いらっしゃい。時音ちゃん」
「正守さん」
無事な姿にほっとする。







ーーーーーーーーえ?
正守さんの足下にいるのは良守だった。
「よ…良守っ」
何か、様子が変だ。
駆け寄って初めて異変に気づく…


ぐったりと疲れ切って眠る姿には、無数の朱色の後が散らばり、情欲の後がハッキリと見て取れた。
「抱いたよ…俺」
正守の言葉に、体中の神経が氷になったような感覚を覚えた…




「どうして?…どうして良守なんですか?」
正守の事は、術者として尊敬していた。
夜行を取り仕切る器も、カリスマ性も認めていた。
時音にとって尊敬に値する人物である。
その正守が良守を抱いたという…

どうして…

「時音ちゃんは、気づいてると思ってたんだけどな」

正直、うすうす気づいてはいた…でも、まさかこんな事になるまで想いを募らせているなどとは全く考えていなかった。
良守は…その想いを受け止めたのだろうか?

寝顔は幼い頃のまま、身体だけが大きくなったような良守…
昨日までは、いつも通り何の違和感も感じなかった。

良守は優柔不断だ。
仮に正守に告白されれば何日も何日も悩むだろうし、すぐに結論が出せるような男ではない。そんな事が有れば、私が気が付かないはずがない。

だからこれは…正守さんの独断。
「あなたの…セクシュアリティ(性に関する行動・傾向・性的嗜好など)には興味有りません」

「ほぉ…言うね。良守、随分気持ちよさそうに、よがってたんだよ?」
「同意の上じゃないでしょう」
これは確信があった。
真っ直ぐに正守さんを見つめると、「まいったな」と言って、少し笑って目を伏せた。

「良守。起きて」
帰りましょう…。早くここから…こんな所にいては、いけないのだ。




「ん…っ」
頭が痛くて身体がいやにだるい…なんでだっけ?

目を開けた次の瞬間、目の前で起きていることに凍り付いた。


「と……時音」
どうして時音がここにいるんだ?
ここは…正守が造った空間。

俺、昨日…
良守は気が遠くなりそうだったが、目の前に時音がいてはそれも適わなかった。

「帰るわよ」
言われて裸なのに気が付く。

腰の鈍痛に悲鳴を上げるが、そんなことも行っていられない。
ふらつきながらも何とか立ち上がり、震える手で雪村家の衣装を身につけ、時音の後を追って部屋を出る。

振り返ると正守は部屋にいた。
表情は彫刻のような造形美で、その姿からは生きているのかも疑うほど、まったく動かなかった。

俺はただ、時音の後を追う。
俺が起きるまでに、何があったんだ?

とても聞けるものではなかった。




「良兄ィ!よかった無事だったんだ」
空間を出たところで利守が待っていた。

利守の心底ほっとした顔を見て、みんなに心配掛けたことに今更気が付く。
時音も、帰ってきたら俺が烏森から戻ってないんじゃ心配したろうな…
何があったかは…あの状況を見れば想像するに難くないだろう…

「正守さんも無事だったわ。利守君は授業に戻ったほうが良いと思うわよ」
兄貴…無事なんだ。俺は頭の端でぼんやりとそんなことを考えていた。

「はい。でも、良兄ィすごい顔色だよ。一体何があったの?」
何があったかなんて、とても言えない。
無理をしているせいか、酷い顔色なんだろうな…
実際立っているのもやっとだ。正直地面に倒れ込んで休みたいくらいだが状況がそうさせていくれない。俺は利守に「心配すんな。大丈夫だから」と言い残して、烏森学園を後にした。





「乗って」
学校から少し離れた所に、時音の車が止めてあった。
時音が運転席に乗り込んだので、俺は黙って言われた通り助手席に乗り込む。

帰ってきて真っ直ぐ烏森に来たのかな?
聞きたいことは山ほど有るけど、とても聞けなかった。

時音を…裏切ってしまった。

そんなつもりは全然なかったとはいえ…やはりアレは言い逃れできない。
身体には、正守の残した後がたっぷりと残っている。



無言の車は名の通った一流ホテルへと入っていく。
俺がキョロキョロとしていると、時音が
「その格好じゃ帰れないでしょ」
と、静かに言った。
天穴は車の中に置いてきたが、服は汚れて確かに酷い格好だった。

時音がチェックインして、ベルボーイが荷物を運んで行く。
通された部屋はジュニアスイートだった。


「こっちよ」
時音に呼ばれて後を追う。
大理石造りの広々としたバスルームで時音が俺を呼ぶ。

俺は今まで怖くて見られなかった時音の顔を見た。
怒るわけでも笑うわけでもなく…静かな顔
長年つきあいのある俺は、この顔の時が一番冷酷な判断を下すのを知っていた。

震えながら命乞いする妖を、冷たく滅するときの顔だ。
その顔が、今俺に向けられている…


たとえ…

このまま殺されたとしても、時音ならいい。

時音なら…

時音がシャワーを出して、こちらを見る。

シャワーの落ちる所に座れと言うことだろう。
俺は服を脱ぎ、シャワーの雨へ黙って正座した。

温かなシャワーは心地よく、昨夜の名残を洗い流してくれる。
心地ちいいけど…身体には正守が落とした朱色が無数に散らばっていた。

ご丁寧に首筋や下腹部、太股に集中して…
時音は一体どういう気持ちでいるんだろうな…

不思議なことに、俺の心はとても穏やかだった。
俺が好きなのは時音だけだ…



「気持ちよかった?」
「え?」
返答に困る…シャワーの事で良いのかな?
「うん…。」







「へぇ。………よかったんだ。」
え?なんか反応がおかしくね?
「正守さんに挿れられたのそんなに気持ちよかったの…」
でぇぇぇっっっっっっっっっっっっ
「違うっっ。そう言う意味じゃなくてっっ」
時音の美しい顔がゆっくりと近づき、焦点の合うギリギリまで来たところで、時音の目が嬉しそうに細められる。
「今のセリフ。たっぷり後悔させてあげる」

もうすでに、たっぷり後悔してます…。
と、言う良守のセリフは蛇に睨まれたカエルのように声にならなかった…





「正守さんは最初どうしたの?」
「え?」
最初と言われても困る…どうしたんだっけ…

「どんなふうに触られたの?良守から誘ったの?」
「そんな!俺から誘うなんて事、あるわけないだろ…」
質問してくる時音は表情が読めない…
「急に…兄貴からキスされて、なんか無理矢理押し倒されたんだ。俺、誘ってなんかない」
そこの所はキッパリ主張した。俺が好きなのは時音だけだ。
「でも、気持ち良かったんだ?」
「…」
それを言われると反論できない…あんな快感、今まで感じたことなかった。
「ご…、ごめんなさい」

時音とは幼い頃から長年一緒にいるが、こんな時音を良守は見たことがなかった。
静かな静かな怒りの炎に照らされ、いつしか温かいシャワーは水のように感じる。
次の時音の動きが全く予想できなかった。

やがて…時音がゆっくりと視線を流した。
「良守。」
「はい」

「私無しでは、いられないような身体にしてあげましょうね」
「…え?」
怪しく光その目は、優しく微笑んでいるのにも関わらず、怒っているようにしか見えないから不思議だ…。



シャワーを止め
ふ…と、時音がバスルームを後にするので慌てて後を追おうとしたら、バッグを持ってすぐ戻ってきた。

良守はそのバッグに見覚えがあった。
あれ、確かうち(墨村家)にあったやつだよな。
なんで時音が持ってるんだろう?

時音は何か黒い物を取り出してこちらへやってくる。
なんだろう?と思っていると目に覆われた。
「!?」
びっくりしたけど、どうも目隠しだったらしい。
え?え?俺、どうすればいいのかな?

ビクッ…
良守の身体がビクつく…突然唇に何かが触れたからだ。目隠しされているので見えないが、どうも時音の指のようだ。

指はゆっくりと良守の唇をなぞり、誘われるように口を開く良守の中へと侵入してきた。
口内に差し入れられた指は良守の舌にからみつくように蹂躙してくる。
疲れ切った身体がくすぶり始め、昨夜の熱に再び灯がともる。
まるで口の中を犯されているようだ。

「はぁっ…」
俺が溜まらず吐息をもらすと
「感じる?」
時音がそう聞いてくるので、恥ずかしい気と頷いた。多分もう、快感を伝えるアンテナは形をなしているだろうから…。

「可愛い…良守。恥ずかしいのかな?」
声のトーンに少し機嫌がよくなった?と時音の変化を感じる。
良守はコクンと頷いた。
「もっと恥ずかしいことしてあげましょうね…」
ほんの少し機嫌の良くなった時音に、俺はホッとしていた。


「ん…あっ」
大理石の床に押し倒され、ボディーソープを塗った時音の滑らかな肌が、俺の身体に吸い付くようにすべる。
身体が気持ちいい物で包まれているような感覚の上に、
時音の細く繊細な指先が、俺の反応が返る場所に一つ一つ丁寧に刺激を与えていく。

「はぁっ…」
目が見えない為か、それとも昨日のいつもより感覚が鋭くなっていて、疲れ切っていた身体に快楽が染み渡っていく。

湯船を張る水音がやけに遠く感じて、時音の存在だけが近く感じる。
陶酔しそうな緩やかな愛撫に身を任せて、遮られた視界から快楽の世界にのめり込む。

慣れているはずの時音とのキスも、状況がいつもと違うせいか妙に興奮する。
てか、どうして時音は兄貴のとのこと攻めないんだろう?
俺が寝ている間に、どんな話をしたんだろうか…

時音の指が後ろに差し入れられ、中を探るように愛撫してくる。
「ん…っぁ」
昨日の名残なのか、シャワーなのか、濡れているソコを掻き出すように内部まで洗われる。

身体を泡を洗い流した後、二人して湯船に入った。
腰を浮かせるように命じられて、風呂の縁に足を乗せて水面まで腰を浮かせると、時音がフェラしてくれた。

…なんかいつもと違う…
水に浮く浮遊感とお湯の温度でのぼせてんのかな?
「ん…」
でも、時音のやり方もいつもと違って玉まで舐めてくれて、その延長で後ろの穴まで舌を這わせてくる。
ソコはもうお湯の中だから、時音は呼吸が出来ないはず。

「時音、息…苦しくないのか?」
今まで怖くてなにも言えなかったけど、不意に時音が心配になって訪ねてみた。
すると、時音は潜っていた顔を上げて、俺の足に頬を寄せ来たようだ。
目隠しはされているものの、その分感覚が鋭利になっているので時音の動向はよく伝わる。

「良守を気持ちよーく、させたいの…」
「気持ち…いいよ。」

「ダメ。正守さんより気持ちいいって思ってもらわなくちゃね。」
言い方は明るいが、ショックだったに違いない。
「う……ご…ごめんなさ」
「いいの」
謝ろうとした俺の言葉を時音が遮った。

「今度、あの男が襲ってきても、「時音の方が気持ちいい」って言わせてあげる」
「……へ?」
あ…あの男って兄貴の事だよな…
兄貴を「あの男」…

「正守さんなんかに、渡さないわ」
時音の決意の籠もる声に、…こんな時に不謹慎かもしれないけど、少し感動した…。
時音は、俺のこと想ってくれているんだ。
いっつも俺ばっかり好きなんだと思ってた。

「何嬉しそうな顔してるの?」
うΣ
「えと…。時音が俺の事好きなんだなって思ったら…嬉しくて…」

「………好きよ。だからもう、他の人なんか見ちゃダメ。」
「うん」
そう答えると、時音は目隠しをはずしてくれた。
日の光に照らされた時音はとても美しく、優しく微笑んでいた。
「私も、良守だけだから。だから良守も私だけにして」
「…うん。ごめん、時音。」
時音の唇がそっと触れてきて、ごく自然にキスをした。
それは、2人だけの誓いのキス。


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すんまへん…話が入り切りませんでした。
時音のHはまだ続きますw
時音バッグの説明とかも今度です。
さて、今回は皆様の下さるメールを元に書かせていただきました。

前半のまっさん対決部分は
「真面目な時音シリーズ良かったです。
早く時音VS正守の良守争奪戦が読みたいです。」

と、おっしゃって下さった方がいたから出てきた部分です。
最初の予定じゃ良守は雪村家に戻り、時音に会うのを怖がる所からはじまってましたからね…
次回のラスト?に、まっさんチラッと出てきて決着が付く予定です。

時音とラストがラブな雰囲気になっているのは
「時音に対しても受身の良守いいですね。」とのお言葉を頂き、乙女な部分を持っている時音にも受けな良守ができあがりました。

お二人に満足いただけるような内容になったかは判りませんが、楽しんでいただければと思います。無理かも…


今回SMだなんて書いてしまったために、えらい調べましたよw
しっかしSMって奥が深いんですね。とても調べ切れません。
一応…少し書いては見たんですが、どうにも私の趣味と合わなくて…何度も何度も書き直し、このように落ち着きました…時間掛かって済みません。

結局ソープテクにしておきましたが…マットとかはラブホ行っても無いので大理石にしておきました。
ホテルのサイトへ行き、いくらの部屋がどんな部屋か、内装の写真とか見て一泊10万弱って感じの所をイメージしました。


さて、管理人はあんまり嫉妬心持ってないんですよね。
浮気されたら自分の魅力が足りないんだろうから磨いて、それでも戻ってきてもらえなかったら次ぎ探すさ…みたいな…自分の中で消化しちゃいそうです。それに、精一杯努力してだめだったらそれなりに諦め付くよね?
え?付かない?そーなのか…

これを喋るとみんなに「信じられない」とか言われるのですが、取りあえず本心なんです。
何故取りあえずというと、まだ一度も浮気されたことがないので、いざその時になって自分がどういう行動取るのか判らないからです。

でもこれ↓(外部リンク)を読むと嫉妬心も有る方がいいなとか思ってしまいます。
http://www3.plala.or.jp/nasugamama/jerousy.htrml

このリンクにある「エンビー型」ですが、このタイプの人って人を追い落とすことばかりに気を取られて自己努力を怠るため、周りに追い越されちゃうんですよ。
まーみんながみんなじゃないですよ。
人の足は引っ張りつつも頑張る人もいます。

ただ、ちゃんと努力している人は、その時は損だと思っても頑張ればなにかしらついてきたものです。
あとでちゃんと報われたと思います。
足引っ張ってる人も努力分は報われたと思いますし。

経験ってのはすごいですよ。あれが耐えられてたんだから、こんなの大した事ねーや。みたいな…人間って過去に会った困難より小さな事には動じないようになってるみたいで、どんな経験も損にはならないって今では思ってます。
「ジェラシー型」の方が切磋琢磨できていいと思います。

でも、管理人はあまり他人に感心のないの「マイペース型」ですかね。
↑そのわりには、すぐ人に影響されるねw
次回は、「真面目な時音の独占欲」って感じのコンセプトで行こうと思います。
こんな長い文読んで下さる方なんて居るのでしょうか?疑問

2007.6.21



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